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 2021年11月、金融サービスの分野において、日本ではこれまでになかった新たな業態が始まる。銀行、証券、保険といった異なる業態の金融商品やサービスをワンストップで仲介できる「金融サービス仲介業」だ。

 従来、各業態の金融商品やサービスを仲介するには、銀行であれば銀行代理業者、証券であれば金融商品仲介業者、保険であれば保険代理店といったように、それぞれの仲介業として認可・登録が必要だった。

 金融サービス仲介業は、顧客の側に立ったサービスの提供を目指したものになっている点も新しい。従来の仲介業では、商品やサービスの仲介を特定の金融機関から委託を受けるとともに、監督指導を受ける。そのため顧客の側に立って商品やサービスを提供する形となりにくい。金融サービス仲介業では、こうした監督および指導を受ける必要がない。

 「現実にはあり得ないが、もし、ありとあらゆる商品やサービスを扱える形になっていれば、ものすごく価値がある。さまざまな企業が参加したくなるような業態になっただろう」。FinTech関連の有識者の一人はこう述べる。

 2021年6月に、金融サービス仲介業に関する詳細を定める法令や監督指針が公表され、同時に金融サービス仲介業の登録申請が可能になった。だがこの時点で、参加に向けて具体的な準備を進めているのは限られた企業にとどまった。参加に向けて積極的に動くとみられていた多くの企業は「調査中」や「検討中」など腰が引けている状況。法律は作ったが、世の中へのインパクトはほとんど及ぼさないままになる恐れがある。

消費者向けカードローンが外れて興味薄に

 企業の参入意欲が湧かない最大の理由は、金融サービス仲介業が取り扱える商品やサービスの範囲が狭いことだ。銀行、証券、保険のそれぞれにおいて、取り扱えるものに厳しい制約がある。

 銀行では、普通預金や定期預金、振り込みや住宅ローンなどは取り扱えるが、消費者向けカードローンが扱えない。消費者向けカードローンが扱えないと分かったとき、銀行関連の関係者の多くは興味を失ったとみられる。消費者向けカードローンは、顧客の獲得コストが大きく、収益性が高いもの。新たな販売チャネルを活用する意義が大きい。

 「生命保険や損害保険が最もうまみがあるが、そこを封じられた」との声もある。銀行や証券よりも、保険における商品サービスの制約が最も厳しくなった。保証金額の上限額は生命保険が1000万円、損害保険が2000万円、医療保険などを含む第3分野が600万円と低い水準に縛られている。