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 長年、建築物に使われてきた木材。温暖化ガス排出削減効果や建物の利用者にもたらす健康効果などを背景に、住宅だけでなく中大規模施設でも活用事例が急速に増えている。SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる17のゴールのうち、気候変動対策に関する目標や健康に関する目標などと合致する動きだ。

 しかし、SDGsの中の持続可能な森林経営などに関する目標に対して、まだ建築界には取り組みを強化する余地が残っているように思う。筆者がそう考えたのは、内装デザイン大手の乃村工芸社が新設したオフィスを2021年6月に見学した際に、「フェアウッド」という木材・木材製品の説明を受けたことがきっかけだった。

東京・お台場に完成した、乃村工芸社の新オフィス内観。家具などに使う木材に、フェアウッドを採用している(写真:日経アーキテクチュア)
東京・お台場に完成した、乃村工芸社の新オフィス内観。家具などに使う木材に、フェアウッドを採用している(写真:日経アーキテクチュア)
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 フェアウッドとは、地球・人間環境フォーラムと国際環境NGOのFoE Japanが提唱する、伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材・木材製品のことだ。乃村工芸社の新オフィスでは、机や椅子といった家具の他、壁面タイルの下地材などに使った木質材料に、フェアウッドを採用したという。

 地球・人間環境フォーラムの担当者は、「フェアウッドを提唱する裏側には、フェアではない違法伐採された木材があるということだ」と指摘する。

 さらに、建築物の構造材や内装材だけでなく、施工段階で使い捨てられる木材にも目を向ける必要があるという。「インドネシアやマレーシアで採れる南洋材は節が少なく平滑性の高い木材が多いため、建築分野では型枠用合板に使われている。しかし、そうした地域では違法伐採の問題が残っている」(地球・人間環境フォーラムの担当者)

 そんな中、持続可能性に配慮した型枠用合板の調達に動き出している大手企業がある。三菱地所グループは20年6月、型枠用合板における持続可能性に配慮した木材の使用率を、30年度までに100%にするという方針を発表した。

 その方針にのっとり、三菱地所レジデンスでは、新築分譲マンションの型枠調達において木材のトレーサビリティー(生産履歴の追跡)の確保に取り組み始めた。FSC(森林管理協議会)による認証など、複数の認証を組み合わせることで、“川上”に当たる森林管理から“川下”に当たる施工まで切れ目なく追跡する。

三菱地所レジデンスが手掛ける「ザ・パークハウス 高輪松ケ丘」の外観イメージ。FM(Forest Management)認証やCoC(Chain of Custody)認証、FSCのプロジェクト認証によって型枠用合板のトレーサビリティーを確保している(資料:三菱地所レジデンス)
三菱地所レジデンスが手掛ける「ザ・パークハウス 高輪松ケ丘」の外観イメージ。FM(Forest Management)認証やCoC(Chain of Custody)認証、FSCのプロジェクト認証によって型枠用合板のトレーサビリティーを確保している(資料:三菱地所レジデンス)
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 幾重にもわたるサプライチェーンを追跡するのは、手間やコストがかかる。取り組み始めている企業はごく一部だろう。ただし、ESG(環境・社会・企業統治)の視点で建築物を評価する動きは徐々に高まっており、遅かれ早かれ、「社会」の1つの要素として木材調達に関する問題が顕在化する日が来るはずだ。

 無配慮な木材調達に対し、非政府組織(NGO)などが批判したり、政府が規制強化に乗り出したりする可能性もある。社会からの風当たりが大きくなる前に、建築物の発注者などは、自社の手掛ける建築物で木材調達に問題がないか点検し、対策を打っておくべきだ。