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 それは、かつてSF映画で見たスマートコンタクトレンズを使った未来の生活が、実はすぐそこまで来ていることを実感させるデモだった。

 AR(拡張現実)用コンタクトレンズ「Mojo Lens」を開発する米国のスタートアップ、Mojo Vision(モジョ・ビジョン)は2022年7月27日、製品化に必要な要素技術を完全に詰め込んだ試作品の体験デモ会を国内報道陣向けに開催した(図1)。

図1 Mojo Lensの試作品
図1 Mojo Lensの試作品
1万4000ppiのマイクロLEDディスプレー、5GHz帯の無線通信機能と英ARM(アーム)のCPUコアを組み込んだASIC(特定用途向け半導体)、イメージセンサー、モーションセンサー(加速度、ジャイロ、地磁気)、小型バッテリー、無線給電機能などを実装する(写真:Mojo Vision)
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 この最新の試作品は、2022年6月28日に同社共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のDrew Perkins氏が自らの目に装着して動作を確認したことをブログで発表したものである(図2)。

図2 Mojo Lensを装着したCEOのDrew Perkins氏
図2 Mojo Lensを装着したCEOのDrew Perkins氏
自ら装着して動作を確認した、共同創業者兼CEOのDrew Perkins氏。かぶっている帽子のつばに無線通信のアンテナが埋め込まれているという(写真:Mojo Vision)
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 もちろん、安全性に対する認証などはまだ取得していない試作品なので、我々が実際に装着して使うことはできない。しかし、モジョ・ビジョンはレンズを装着していなくてもARコンタクトレンズの使用感を体験できるキットを開発しており、今回のデモではそれを使用した(図3)。

図3 Mojo Lens体験デモの様子
図3 Mojo Lens体験デモの様子
左はMojo Vision Senior Vice President, Product & MarketingのSteve Sinclair氏。右は体験中の弊社記者(写真:日経クロステック)
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 キットは先端にMojo Lensを固定したホルダーと、Mojo Lensに搭載されたマイクロLEDディスプレーに表示するARコンテンツを生成する演算ユニット(黒いボックス)で構成される(図4図5)。演算ユニットはCPU、GPU、無線通信ユニットなどを内蔵する。Mojo Lensが実装する加速度センサーやジャイロセンサーなどのデータを演算ユニットに送り、利用者が見ている位置に合わせたコンテンツを演算ユニットで構成し、それをMojo Lensに送ってAR表示する。

図4 先端にMojo Lensを固定したホルダー
図4 先端にMojo Lensを固定したホルダー
デモで使用したホルダー。先端にMojo Lensが固定されていて、それを眼科検診のように目に当てて体験する(写真:日経クロステック)
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図5 Mojo Lensのホルダーと演算ユニット
図5 Mojo Lensのホルダーと演算ユニット
写真下の黒いボックスが演算ユニット。製品版では、この機能をネックバンドなどでウエアラブル化し、さらにアンテナを内蔵する予定(写真:日経クロステック)
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 「眼球の動きは速いので、このプロセスを10ミリ秒以下で処理している」と同社Senior Vice President, Product & MarketingのSteve Sinclair氏は話す。

 今回のキットではMojo Lensと演算ユニットがケーブルで接続されていたが、製品版では無線接続になる。既にMojo Lensの試作品には独自プロトコルの無線通信機能や無線給電機能、超小型の2次電池などが実装されている。「製品版では連続使用で2時間を目指す。そして夜間にコンタクトレンズを取り外してクリーニングする際に、同時に無線給電で充電できるようにする」(Sinclair氏)

 一方、演算ユニットは小型化を進め、製品版ではネックバンドのようにウエアラブルにしたいという。そこに無線通信のアンテナも実装する。つまり、製品版はコンタクトレンズとネックバンドなどの形状を有する演算ユニットで構成される。「製品価格のゴールとしては、ハイエンドのスマートフォン程度を目指したい」(同氏)としている。