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 KDDIが起こした大規模通信障害を受け、緊急時の事業者間ローミングに注目が集まっている。同障害では、警察や消防などへの緊急通報もつながりにくくなった。このような際に、他社のネットワークへと相互乗り入れする事業者間ローミングを一時的に実現することで、非常時も人々のライフラインである携帯電話が使えるようになる。11年前の東日本大震災の時も、緊急時の事業者間ローミングの必要性が議論された。しかしいくつもの課題に阻まれ、解決しないまま現在に至っている。

 そんな状況が、KDDIが起こした大規模通信障害を受けて変わりそうだ。総務相が緊急時の事業者間ローミングを検討する考えを示しているほか、NTTなどからも前向きに検討するという声が出てきているからだ。10年以上塩漬けだった緊急時の事業者間ローミングは、KDDIの通信障害をけがの功名として、いよいよ国内でも実現するか。

スマホにはSIMカードなしで緊急通報できる機能がある
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スマホにはSIMカードなしで緊急通報できる機能がある
日本では法令がネックとなり実際にはかけられない(写真:日経クロステック)

東日本大震災時に立ちはだかった3つの課題

 「事業者間ローミングを実現するためには、具体的な機能や運用ルールのあり方などクリアすべき課題もある。総務省としては、さまざまな選択肢を視野に入れながら速やかに検討を進めていきたい」

 金子恭之総務相は2022年7月29日の記者会見で、緊急時の事業者間ローミングの実現に向けて速やかに検討する考えを示した。総務省は近々検討会を立ち上げて議論を開始する見込みだ。

 緊急時の事業者間ローミングは、東日本大震災が起きた2011年も総務省で議論された。当時は主に3つの課題が表面化し、実現には至らず継続検討になった。

 まずは(1)各社で採用する携帯電話の方式が異なった点だ。2011年当時はまだ3G全盛時代であり、NTTドコモとソフトバンクモバイル(当時、現ソフトバンク)がW-CDMA方式、KDDIがCDMA2000方式を採用していた。例えばCDMA2000方式の端末を持つ利用者は、W-CDMA方式のネットワークにローミングできない。事業者間ローミングの有効性に乏しかった。

 さらに(2)容量面の課題もあった。災害時に応急復旧したネットワークは処理できる通信量も限られている。事業者間ローミングによって他社の利用者を受け入れると負荷が高まり、自社の利用者もつながりにくくなる恐れがある。

 そして日本では法令で、(3)緊急通報が途切れた場合も、発信者に呼び返し(コールバック)できる機能が求められている点もネックになった。

 緊急通報時の発信者は、急な事故や事件に直面しているケースが多い。こうした局面では、現場に駆け付けるために必要な場所の情報を告げずに電話が切れてしまう場合がある。呼び返し機能があれば、緊急機関から発信者に電話をかけて、再度場所を確認できる。事業者間ローミング時には、この緊急通報の呼び返し機能を満たすことが難しいケースがある点もハードルとして残った。