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 突拍子もない話をしたい。もし、ネジやバネ、ヒンジといった機械要素部品を全く使わなくて済むとしたら――。機械設計の世界は大きく変わるに違いない。一般に、機械設計する際には機能ごとに分けた別々の部品を設計・製作する。その際、締結や弾性変形といった機能については下の写真のような標準部品を使う場合が多い(図1)。しかし、初めから必要な機能を全て詰め込んだ製品を、たった1種類の材料で造れるならば、それはとても画期的なはずだ。

図1 バネ、ボルト・ナット
図1 バネ、ボルト・ナット
(出所:PIXTA)
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 つまり、ネジやバネなどの機械要素とその他の構造体が連続的につながった、1つの部品として製作してしまうのである。部品点数を大幅に減らせる上、製品の軽量化も期待できる*1

 ここまで読んで、筆者が何を言っているのか、さっぱり分からないと感じた読者もいると思う。実は、そんな夢のような技術に取り組むベンチャー企業がある。次の写真を見てほしい。

*1 標準部品を多用して組み合わせるような機械との比較について言及している。

図2 ロボットハンド
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図2 ロボットハンド
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図2 ロボットハンド
30点の部品から成る製品(左)と、1つのポリアミド樹脂部品による製品(右)。(写真左:Nature Architects、写真右:日経クロステック)

 これは、東京大学発ベンチャー企業のNature Architects(東京・港)が製作した、ロボットハンドだ(図2)。両者とも、2本のつめを動かして物体をつかめる。左は、機械要素部品を使って組み立てたもので、部品点数は約30。右は、ポリアミド(PA)樹脂を使用し、後述する同社の設計アルゴリズム「DFM(Direct Functional Modeling)」によって形状を導き出した。部品点数は1つしかない。

複数の機能を1つの部品でまかなう

 DFMによって設計したロボットハンドは、複数の部品に分かれておらず、ヒンジやボルトといった金属部品を使っていない点に注目してほしい。写真は3Dプリンターで造形したものだが、射出成形を使った大量生産も可能だ。あくまで同社が技術デモのために制作したものではあるが、樹脂で形成した薄肉のヒンジ部は10万回以上の繰り返し動作に耐えられる。

 興味深いのは、同社があらかじめ小さな機能ごとに形状(以下、機能形状)を定義し、その機械的な特性を評価している点にある。ここでは、例えば「ポリアミド樹脂の薄肉ヒンジ」や「ポリアミド樹脂の板バネ」といったように材料も指定する。これらを汎用的に使えるよう、コンピューター上で設計している。

 こうして用意した機能形状から、新しく製品を設計する際に必要なものだけを呼び出して組み合わせる。ソフトウエア開発におけるライブラリと似た考え方だ。繰り返しになるが、異なる機能を持った複数の部品を組み合わせるのではなく、連続的につながる1つの製品として造る。3Dプリンターと相性が良い設計手法に見えるが、同社は製造方法を限定する手法ではないとする。設計対象の材料も樹脂だけでなく、金属や木材なども使えるという。

 同社によると、上述の「ポリアミド樹脂の薄肉ヒンジ」や「ポリアミド樹脂の板バネ」といった機能形状は、「コンプライアントメカニズム」と呼ばれる機構の一種である。これは、材料の弾性を積極的に利用して可動部を形成するというコンセプトだ。

 DFMは、このコンプライアントメカニズムを生成したり配置したりできる設計アルゴリズムだ。DFMでは、1つの製品を小さな形状の集合体として捉え、この小さな形状ごとに最適な同メカニズムを生成・配置してユーザーが求める製品を造り出す。