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 「競合企業が品質不正問題でつまずきました。御社にとっては受注拡大のチャンスではありませんか?」。ある自動車部品で品質データ偽装問題が発覚した。顧客である自動車メーカーから信頼を失うのは必至だ。そこで記者は、同じ自動車部品を造る競合部品メーカーに取材し、こうした質問をぶつけてみた。

 「顧客の立場になれば、品質不正を犯す部品メーカーとは縁を切り、同じ価格で品質が確かな部品メーカーと取引したいと思うはずです。表には高品質のラベルを貼っておきながら、実際には品質データを偽装した部品を納入する。そんな企業の部品を使っていては、自動車メーカーが顧客に対して製品(クルマ)の品質を保証できなくなってしまいませんか」

 ところが、その競合部品メーカーからは予想外の言葉が返ってきた。「いや、その部品の受注は要りません。だって、もうからないですから」。

 さらに聞いてみると、(言葉や印象は悪いが…)敵失に乗じて売り上げや利益を拡大させるチャンスかと思いきや、実はその部品の利幅は薄い。生産量を増やすための設備投資や品質を保証するリスクを負ってまで、受注を増やそうとは思わない、というのである。

 このとき記者は、日本企業の中には、もうからない製品を無理に生産し続けた結果、何かの拍子で品質不正に手を染めるに至ったケースが少なからずあるのではないか、と感じた。

図1 持続可能な品質維持の仕組み
図1 持続可能な品質維持の仕組み
市場/顧客が求める本当の品質/品質水準である「適質」を見極め、それに見合った適切な価格「適価」を算出する。それにより、「適質適価」による受発注契約を結ぶ。(作成:日経クロステック)
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「枯れた製品」で品質不正が目立つ

 そうした目で、ここ5年ばかりの日本の製造業で起きた品質問題を振り返ると、技術的にコモディティー化した製品、いわゆる「枯れた製品」が目立つことが分かった。製品の品質は下げられない、いやむしろ高める要請を顧客から受ける一方で、価格は下がる方向にプレッシャーがかかる。

 それでも「供給責任」という重い言葉の前に、受注側の企業は改善はもちろん、人員削減や老朽化した設備をいつまでも使い続けるといった涙ぐましいまでの努力で頑張るものの、いつしか限界を迎える。結果、品質維持のために必須の管理手法や検査などを間引いて品質トラブルを起こし、ついには不正に走ってしまう。既にこうした限界を超えている日本企業が少なくないのではないか。

持続可能性のある品質維持の仕組み

 こうした現実を踏まえると、日本の製造業が品質不正問題と決別するためには、持続可能な品質維持の仕組みを構築することが何よりも大切となりそうだ(図1)。顧客側の企業が一方的に品質やコスト、納期を強いるのではなく、受注側の企業とコミュニケーションを取ってものづくりを進める仕組みである。

 そのためには、漠然と「高品質」を求めるのではなく、まずは市場/顧客をつぶさに調査することからスタートする。これにより、市場/顧客が求めている本当の品質/品質水準、すなわち「適質」を把握することが重要となる。

 その上で、適質を無理なく実現できる、すなわち受注側の企業が品質と納期のバランスを取って経営を維持できる適正な「品質コスト」を見積もって折り込み、適切な価格となる「適価」を計算する必要がある。こうして、発注側も受注側も持続可能な「適質適価」による受発注契約を結べば、品質問題を回避できるはずだ。

 この「適質適価」を条件に受注し、部品/材料/設備メーカーなどの受注側の企業が十分な利益を得られるのであれば、継続的な受注に向けて改善などの努力を続ければよい(図2)。

 問題は、「適質適価」を条件にしたつもりでも、市場/顧客の要求や環境の変化や、原材料価格の変動などでその条件が崩れ、「十分な利益を得られない」ケースだ。要は、冒頭の部品のようなケースである。どうしたらよいのか。

図2 品質問題を防ぐための受注企業側の対処法
図2 品質問題を防ぐための受注企業側の対処法
「適質適価」を条件とした受注を前提とする。これで十分な利益が得られる場合は継続的な受注を目指す。何らかの変化によって「適質適価」の条件が崩れた場合は、4つの対処法を検討する。望ましい順に「◎」「○」「△」と付けた。品質不正は絶対に避けるべきだ。(作成:日経クロステック)
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