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 「ブーン」。2020年7月のある週末、北の大地から1台のドローンが上空へ、勇ましいモーター音とともに舞い上がった。ANAグループの持ち株会社であるANAホールディングス(ANAHD)と旭川医科大学、調剤薬局運営のアインホールディングス(アインHD)などが北海道旭川市内で、ドローンによる処方薬輸送の実証実験を実施したのだ。

ANAホールディングスなどが北海道旭川市内で実施した、ドローンによる処方薬配送の実証実験の様子
ANAホールディングスなどが北海道旭川市内で実施した、ドローンによる処方薬配送の実証実験の様子
(出所:ANAホールディングス)
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 今回の実証実験は「たまたま積み荷が処方薬だった」という点にとどまらない意義がある。新型コロナウイルス感染症の流行で外出自体にリスクがある、あるいは外出したくても体調などの理由でままならない人たちが、遠隔で診療を受け処方薬の受け取りまで済ませられることを目指す実証実験なのだ。特別養護老人ホームの入居者が旭川医大の医師の診察とアインHDの薬剤師による服薬指導をオンラインで受けた後、ドローンは温度管理可能な箱に入った処方薬(今回はインスリンの自己注射の練習用キット)を調剤薬局から特養に無事届けた。

 この件に関連して記者は、気になっていた疑問点を単刀直入にANAHDへぶつけてみた。「コロナ禍による経営環境の急変を受け、ANAHDの新規事業開発はどう変わっていくか」という点だ。同社の新規事業部門であるデジタル・デザイン・ラボ(DDラボ)の責任者を務める久保哲也チーフディレクターの回答は明快だった。「(ANAHDの)ドローンプロジェクトは2022年度のレベル4解禁を1つのマイルストーンとして、事業化に向けた検討をしている」――。

 春先からのコロナ禍が同社の屋台骨である航空輸送事業を直撃し、苦境に立たされているのは言うまでもない。2020年7月29日に発表された4~6月期の連結決算は、四半期ベースで過去最大となる1088億円の最終赤字を計上した。海外ではタイ国際航空や豪ヴァージン・オーストラリアのように法的整理を選択する航空会社もあり、ANAHDや日本航空(JAL)など国内航空各社の先行きを心配する声も上がる。

 そうした厳しい環境下でも新規事業開発を継続するのは、新規事業が自社の中長期的な存続に不可欠であり、短期的な業績悪化があってもそこにメスを入れてはいけないという明確な信念があるからだろう。久保チーフディレクターはこうも言及している。「不況だからこそ、社会をよくする事業を開始し、新しい収入源をつくる必要がある」「コロナ情勢下では世の中がドラスチックに変容しつつある。遠隔医療などの規制が一気に変わろうとしているし、社会の新技術に対する受容性も高まっている。感度を高めてニーズを拾い上げることで、競合優位性を確立する好機としても捉えている」。ピンチはチャンスであるという、これも明確なマインドセットだ。