米国内での半導体製造を支援する法案「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)for America Act」(以下CHIPS)が米国連邦議会の上院と下院の両方で承認された。この法案により527億米ドル(約7兆200億円、1米ドル=133.14円で換算)の補助金が、半導体業界に投じられる。米SIA(Semiconductor Industry Association:米国半導体工業会)や米国の半導体メーカーがロビー活動を続けてきており、ようやく成立への運びとなった。しかし、なぜ今なのか。記者は考えてみた。
半導体業界では水平分業が2000年ごろから急速に進み、製造はアジアのファウンドリーが担うようになっていった。アジアのファウンドリーではいわずと知れた台湾TSMC(台湾積体電路製造)が圧倒的に強く、全ファウンドリーの生産額の半分以上を同社が占めるとされる。米国と中国の間の緊張が高まるにつれて台湾の地政学リスクが大きくなり、米国内での半導体製造への重要性を訴える声が強まっていった。SIAによれば、世界の半導体生産に占める米国の比率は1990年の37%から2020年ごろには12%に下がってしまったという(図1)。
米国の半導体製造能力の弱体化に危機感を持った超党派の議員グループが2020年6月にCHIPSを提出した。米国では法案が提出されても成立しなかったり、成立に時間がかかったりすることが多いといわれている。CHIPSもその例に漏れない。提出から2年以上がたっている。CHIPS提出後に新型コロナウイルスのまん延が深刻化したり、ロシアがウクライナに侵攻したりといった、これまでにない事案が発生し、これらがCHIPSの承認遅延に影響を与えたという意見も聞かれる。そうだろうか。
上院でCHIPSが承認されたのは2022年7月27日、翌28日に下院でも承認された。下院で承認された28日、米国で最大の半導体メーカーIntel(インテル)が2022年第2四半期(4~6月)の決算を発表した ニュースリリース 。SIAによれば2022年第2四半期の世界半導体売上高は前年同期比で13.3%増加した一方で、IntelのGAAPベースの売上高は153億米ドル(約2兆400億円)と前年同期比で22%も減少した(図2)。売上高の減少だけではない。GAAPベースで5億米ドル(約660億円)の最終損失を計上して、赤字に転落してしまった。同社CEOの Pat Gelsinger氏は、ことあるごとにCHIPSの早期成立を訴えており、CHIPSの承認はIntelの救済が狙いかと、記者は一瞬思った次第である。