展示会で見かけた、一見何の変哲もないアルミ製の角型ポール。床に対して垂直に立っており、その先端は身長155cmの記者の目線より低かった。それが、わずか1分で5mもの長さまで伸びるから驚いた。写真を撮ろうにも、数歩下がっただけでは全貌が収まらないほどだ。
この製品はコアーテック(横浜市)が開発したねじ式の伸縮ポール(図1)。先端にカメラを取り付けて橋梁のさびを確認したり、測定器を取り付けて原子力発電所の放射線量を調べたりする用途で使われている。
伸縮ポールは、入れ子式に組み合わさる管材とねじ軸、ナット(ねじナット)、スプラインとプーリーから成る回転伝達機構などで構成される。例えば3段の伸縮ポールの場合、3本の管材と2本のねじ軸、2個のねじナット、1個の回転伝達機構がある(図2)。動力源はモーターだ。
ポールを伸縮させる上で重要なのが、ねじ軸の形状だ。実は単純なねじ軸ではない。一般的な台形ねじ溝に加えて、それとクロスするように軸方向と平行な2本のスプライン溝が設けてある(図3)。2021年4月から日経クロステックの記者として働き始め、恥ずかしながら機械工学については素人の記者にとって、らせん状のねじ溝に加えて直線のスプライン溝も設けてあるとは、なかなかの衝撃だった。
2種類の溝はそれぞれ違う役割を果たす。台形ねじ溝は、2段目以降の下端付近に固定したねじナットとかみ合う。伸長時はねじ軸を回すと、ねじナットが上に移動し、同時に固定してある管材を持ち上げる。反対に縮小時はねじ軸の回転に合わせてナットが下に移動し、管材も連動して下がる。つまり、台形ねじ溝が回転運動を直線運動に変換する役割を担っている。
一方、スプライン溝は、ねじナットのすぐ上の位置に軸受けを介して支持されているスプラインナットとかみ合う。スプラインナットは軸方向に摺動(しゅうどう)可能でかつ、ねじ軸と連動して回転する。その回転力は、ベルトと1段上のねじ軸にはめ込んだプーリーから成る回転伝達機構を通じて、1段上のねじ軸に伝わる。つまり、スプライン溝は回転力を伝えるために欠かせないものだ。
動力源のモーターが回転させるのは最下段のねじ軸だけだが、スプライン溝や回転伝達機構の働きで2段目以降のねじ軸も同時に回転する。ねじ軸の回転に合わせて各段のねじナットは上下し、管材を動かす。結果、全ての段が連動し、ポール全体が伸縮するのだ(図4)。