かつてIPv4アドレスがほぼ枯渇し、IPv6についての議論が盛り上がったとき、いずれはIPv6オンリーのネットワークが主流になるという移行シナリオが多くの識者から提唱された。確かに固定の家庭向け光回線などを中心にIPv6の普及は進み、海外の主要なコンテンツプロバイダーの対応は済んでいるが、国内のコンテンツプロバイダーはまだまだIPv6対応が進んでいないのが現状だ。
こうした状況を一変させる可能性のある施策にNTTドコモが取り組んでいる。スマートフォンにIPv6アドレスだけを割り当てる「IPv6シングルスタック」の運用を2022年春に開始する。スマホ向けインターネット接続サービス「spモード」とオンライン専用プラン「ahamo」が対象となる。2021年6月29日に報道発表し、アプリケーションやコンテンツの開発者が動作確認するための試験環境を提供することも併せて発表された。
疑問に思うのは、いまだに数多くあるIPv4で運用されているサービスに、IPv6アドレスだけを持つ端末がどうやってアクセスするのかということだ。さらにNTTドコモがこうした施策を始める狙いはどこにあるのだろうか。
IPv4アドレスの値段が高騰
NTTドコモが「IPv6シングルスタック」を始める動機は2つあるという。1つはやはりIPv4アドレスの枯渇にある。NTTドコモの資料によると、約10年前のspモード開始時は契約者が500万人だったのが、2020年度には4600万人を超えた。「IPv4アドレスの値段が高騰し、非常に入手しづらい状況だ。昨今は端末がどんどん増えているが、昔のようにIPv4アドレスをすぐに調達できるというわけにはいかない」(NTTドコモ サービスデザイン部 基盤方式担当部長の飯田和則氏)。
もう1つの理由は、IPv4とIPv6の両方を使う「デュアルスタック」は運用負荷が高いという点。NTTドコモはすでにIPv6に対応しているが、デュアルスタックのネットワークを使ってサービスを提供している。今後端末数がさらに増えてネットワークを増設する際、デュアルスタックでは負荷が高過ぎるという。