先日、ベネッセコーポレーションが国内企業へ販売しているオンライン動画学習サービス「Udemy Business」に関する調査結果について発表があった。約800社が導入するUdemy講座の中で、2022年上半期の人気講座トップ10が明らかになった。
トップ10のうち8講座が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「IT基礎」関連で、デジタル関連分野に対する社会人の高い興味・関心がうかがえる。
今、リスキリング(学び直し)に注目が集まる。企業がDXに本腰を入れるにつれ、デジタル技術を扱える人材の不足が顕著になった。不足を補うためにリスキリングを支援し、自社社員をデジタル人材として育成する動きが加速している。Udemy講座はそのための教材だといえる。記者もこのうちの1つを受講中だ。スキマ時間を使って無理なく視聴でき、継続すれば知識が増える気がする。
「飛び石をジャンプする」ように移行
ビジネスパーソン個人の学びに関して、リスキリングという言葉を使う文章をちらほら見かける。確かに学び直しの機は熟している。学習教材やコンテンツには困らない。
リスキリングを一言で説明する言葉として「学び直し」と付けたが、実はこの言葉に違和感を覚える。個人が、一度習得したスキルがさびたため復習する、あるいは長く離れていたアカデミックな活動を再開するというような誤解を招きそうだ。
リクルートワークス研究所で人的資源管理や組織行動について研究する大嶋寧子主任研究員は、リスキリングを「人が担う仕事が大きく変わっていくときに、働く人が全く新しい仕事のやり方や職務に移行できるようにスキルを再開発すること・させること」と説明する。さらに「リスキリングは企業の戦略にのっとったもので、『移行』するためのスキル習得という概念を含んでいる」と指摘する。
つまりリスキリングは、会社が戦略として社員に「移行」先を示して初めて実践するものだ。その場所で戦うために自社に足りないスキルや、必要とされるポジションなどを明らかにするのが前提となる。
移行は、飛び石をジャンプしていくイメージだという。企業戦略や市場の変化に応じた移行先を見据えて下すスキル装着の決断が先にあり、学びはそれから起こるという順序が正しい。足で稼ぐやり方しか知らなかった営業担当者が、会社のデジタル戦略に基づき、営業支援システムの使い方を学び顧客のデータ分析をする人材に変身するのがいい例だ。
大嶋氏は「学び直しだと『企業の戦略や時代の変化で求められるスキルの変化に応じて』という視点が緩んでいる。社会の要請で行うリスキリングと企業のリスキリング、それと個人が自らのキャリアを設計していく『キャリア自律』という文脈のリスキリングを交ぜてしまっているのではないか。これらは主語も必要となる時間軸も異なる」と記者が持つ違和感の正体を説明してくれた。
これまで企業が個人のキャリアを主導してきた日本で(多くの企業では今でもそうだ)、キャリア自律とそれに基づくリスキリングができるようになるには10年くらいかかる。いま語られるリスキリングは短期間での習得が求められていることが多い。人によってリスキリングという言葉を異なる文脈で使うので、聞くほうは混乱してしまうのかもしれない。