中大規模木造に追い風が吹いている。改正公共建築物等木材利用促進法が2021年6月に成立。名称が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に変わり、21年10月に施行される。木材利用促進の対象が、公共建築物だけでなく民間建築物を含む建築物一般に広がる格好だ。
今後、拡大が見込まれる中大規模木造について、これまで経験のない建築設計者には、早めに準備を始めることをお勧めする。構造設計や木材調達、防耐火など、一朝一夕では対応できない面が大きいからだ。中大規模木造を知るには、実例を調べるとともに、各分野のキーパーソンの動きを押さえておくのが近道だ。
まずは発注者。岩手県住田町は人口約5100人という規模ながら、公募型の設計プロポーザルを繰り返し実施する意欲的な自治体だ。同町は21年8月6日、「滝観洞(ろうかんどう)受付施設新築工事設計業務」について公募型設計プロポを公告した。参加表明書の提出期限は8月30日の午後5時だ。滝観洞は、日本有数の洞内滝を有する鍾乳洞であり、持続的な観光振興に向け、既存の受付施設を建て替えることになった。
延べ面積が約150m2と小規模ながら、公募型の設計プロポーザルを実施することになったのはなぜか。19年に開催した上有住(かみありす)地区公民館の公募型設計プロポの実績があったからだ。同プロポでは応募100者の中から若手のパーシモンヒルズ・アーキテクツ(川崎市)を選定、21年3月に大型木造建築が完成したばかりだ。
住田町では、20年に役場内の職員を集めて上有住地区公民館の工事進捗を報告する機会を設けた。そこに出席していた職員がパーシモンヒルズの共同主宰者である柿木佑介氏と廣岡周平氏の話を聞き、「きちんとした選定プロセスを経て選ばれた設計者は、とても真剣に建物のことを考えてくれるんだ」と感銘を受けたという。「滝観洞受付施設では、そうした庁内の評価もあり、設計プロポーザルを開催することになった」と、住田町役場建設課住宅係技師の田畑耕太郎氏は説明する。
田畑氏は、大船渡消防署住田分署(18年)で、公募型設計プロポーザルを初めて担当。それぞれのプロポの教訓を次に生かしながら、町産材の活用を無理せず実現する流れをつくってきた。「森林・林業日本一」を掲げる住田町だが、今回の滝観洞受付施設では、湿気の滞留を踏まえ、構造形式は特に指定していない。内装で極力、木質化を求める考えだ。