重要性を増す木材調達のコーディネーター
「自治体も、地元で本当に求められる木造建築はどうあるべきか、考える段階にシフトしており、設計プロポーザルの要項にもそれがにじんでいる場合がある。設計者は手に負えないため我々に相談が来ている印象だ」。こう話すのは、岡山県西粟倉村をはじめ、発注者サイドで木材調達発注を支援するNPO法人サウンドウッズ(兵庫県丹波市)の安田哲也代表理事だ。発注者はプロポの条件で、地元の森林資源の量を示して活用法を問うなど、中大規模木造の建設は新たなフェーズに入りつつある。
そのため、木造庁舎などの設計プロポーザルに参加する設計事務所から、木材の活用・調達について一緒に提案を考えてほしいという依頼が、サウンドウッズの下に相次いでいる。大型木造に真剣に取り組む設計事務所のパートナー役だ。
サウンドウッズが主に手掛けるのは、地域の森林資源を使って建築物を建てたいと考えている自治体に対し、基本構想の策定や設計者選定を手伝ったり、木材調達発注を支援したりすることだ。発注側で木材調達をコーディネートする場合、施工とは分離して地元の製材会社に調達してもらい、施工会社に支給する形を取る。
昨今のウッドショックの影響は、住宅用の流通材にとどまらない。一般の製材価格も高騰しており、大型木造では部材の価格や納期に波及しつつある。分離発注によって、なるべく早期に原木を確保することは重要になっている。サウンドウッズの強みは製材業にも精通していること。地元の製材会社を中心に、隣接地域の事業者と連携した調達体制の構築を図る。しかも安田代表理事は、建築設計者の立場も理解している。
著名建築家の名パートナー
経験が物を言う中大規模木造で、要の1つとなるのが構造設計であり、代表的な構造設計者の1人が山田憲明構造設計事務所(東京・品川)の山田憲明氏だ。山形県の白鷹町まちづくり複合施設(20年)では、設計者の環境デザイン研究所(東京・港)と組んで、町内で生産可能な製材を極力用いて16m超という大スパンを実現した。木造架構で半円筒形の吹き抜け空間を覆った国際教養大学図書館棟(08年)でも、環境デザイン研究所と山田氏(当時は増田建築構造事務所)は協働している。
山田氏の最近の活躍は目覚ましい。上勝町ゼロ・ウェイストセンター(20年)で、NAP建築設計事務所(東京・港)の中村拓志代表と連名で21年日本建築学会賞(作品)を受賞した。著名建築家の名パートナーだ。山田氏の事務所を経て独立する構造設計者も出ている。マウントフジアーキテクツスタジオ(東京・渋谷)の設計で21年、島根県海士町に完成したEntô(エントウ)。この構造設計を担当したKMC(東京・狛江市)の蒲池健代表がそうだ。
このほかにも中大規模木造では、押さえておきたいキーパーソンは多い。例えば、木造防耐火の第一人者である安井昇氏(桜設計集団代表)、木材や木造全般に通じたコンサルタントの原田浩司氏(木構造振興)、構造設計では稲山正弘氏(東京大学大学院教授、ホルツストラ主宰)など。一方、大型木造でこれまでにない木造架構の設計に取り組むマウントフジアーキテクツスタジオ共同主宰の原田真宏氏・麻魚(まお)氏、高知市でCLT(直交集成板)を用いた新たな架構に挑む横畠康(よこばたけ こう)氏(艸〔そう〕建築工房代表取締役所長)といった建築設計者の動向からも目が離せない。