全2402文字
PR

 米国と中国の対立が過熱する一方だ。もはや「断絶」と表現すべきではないか。中国による香港国家安全維持法の施行が、両国の断絶を決定的にしてしまったと感じている。

 中国本土はもちろん、香港でも民主化を弾圧し、デモや発言の自由は完全になくなった。選挙によって国の代表を選べないにもかかわらず、中国当局を批判することは許されない。しかも、合法か違法かの境界がグレーに見える。もしも、この極めて重大な部分が中国当局の恣意的な判断に委ねられるとしたら、「人治主義」のそしりを免れないだろう。しかも、中国人だけではなく、この法律が外国人にまで適用されるというのだ。

 影響は甚大だ。既に外資系金融機関やメディア企業、富裕層などが香港からの撤退・脱出を急いでいると聞く。もはやビジネスや生活で安全性が保証されないという判断からだろう。民主主義と共産主義が相いれないのは、これまでの歴史が証明している。米中の対立問題は今後、「民主主義対共産主義」の様相を呈し、さらに悪化する恐れがある。

心配される米国と中国の経済分断
心配される米国と中国の経済分断
経済的に米中に大きく依存する日本。もしも経済が米中で完全に分断されれば、日本企業はどちら側に付くかを迫られるときが来るかもしれない。当然、日本企業としては同盟国である米国を選ばざるを得ないはずだが…(出所:PIXTA)
[画像のクリックで拡大表示]

 心配なのは、日本企業に与える影響だ。米中対立問題について尋ねると、ほとんどの日本企業は口が重くなる。「中国当局ににらまれたくない」というのが本音だろう。多くの日本企業にとって中国は巨大市場であるとともに、部品や材料の調達拠点であり、製品の生産拠点でもある。足元では、新型コロナ禍からいち早く回復基調に戻った中国市場は、多くの日本企業にとって業績回復の希望ともなっている。

 おまけに、中国をまだまだ成長市場と見る日本企業は少なくない。例えば、電気自動車(EV)市場。日本電産は、中国・大連市に1000億円を投じ、EV用駆動モジュール「電動アクスル(イーアクスル)」を年間360万台造れる大規模工場を建設中だ。トヨタ自動車は約1300億円を投じ、天津市にEVの完成車工場を建設すると一部で報じられている注1)。生産能力は10万台/年とも20万台/年ともいわれている。いずれにしても相当な規模の工場だ。

注1) この報道内容についてトヨタ自動車は否定も肯定もしない。「当社にとって中国は重要地域の1つ。中国を含めて各地域に寄り添って戦略を立てていく。個々の地域の投資状況については開示していない」(同社広報部)。

SUV(多目的スポーツ車)タイプのEV「レクサスUX300e」
SUV(多目的スポーツ車)タイプのEV「レクサスUX300e」
レクサスブランドで初となる量産型EV。トヨタ自動車は「2020年以降に中国や欧州などを皮切りに順次発売する」と発表している。(出所:トヨタ自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

「風見鶏戦略」は通用するか

 かつて、トヨタ自動車が一部メディアなどから中国市場への出遅れを指摘された時に、話を聞いたトヨタ自動車のあるOBの言葉を思い出す。「出遅れたくらいが中国市場はちょうどいい。中国政府は我々とは根本のところで考え方が違う(注:日本が民主主義で中国は共産主義ということ)。現地企業を押しのけて日本企業が稼ぎ続けるような状況を、中国政府がいつまでも許すはずがない。もちろん、トヨタも中国を有望市場の1つと捉えているが、売り上げの伸びは市場のそれと比例するくらいの感覚で構わない。突出して売れるのはむしろ危険だ」と。実際、トヨタ自動車は中国に投資しつつ、全世界にそうして満遍なく売り上げを立てている。

 日本企業の「中国依存」が加速したのは、2000年以降だ。その後、産業の空洞化や技術・ノウハウの消失、レアアースの禁輸、人件費の高騰など、さまざまな問題が浮上する度に中国依存は危険だと、日本企業の中で「チャイナプラスワン」が叫ばれた。だが、現実は変わらず、日本企業の中国依存は深まる一方だ。

 今回の米中対立の激化でも、日本企業の多くはじっとして争いが収まるのを待っているように見える。売り上げが減っては困ると米国の顔色をうかがい、中国に忖度(そんたく)する。だが、これまでは通用してきたこの「風見鶏戦略」が、今後も果たして通用するだろうか。