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 「ひとり情シス」という言葉を耳にするようになって久しい。社員が数百人規模の会社でも情シス(情報システム担当者)が1人しかいないという状況は、長くITにリソースを割いてこなかった多くの日本企業において珍しくない。

 業務上の悩みがあっても、「社外秘だから」と人に話せない。上司がいても、社内でITが分かるのは自分だけ――。たとえ1人でなくとも自社のIT構成やポリシーについてそれが正しいのか、問題がないのか、ベンダー以外に社外の第三者に相談できず不安を抱える情シスは多かった。

 だが新しい潮流が生まれ始めている。情シスが会社を越えて集まり情報交換し、困り事があれば助け合ったり、時に互いの技術や知識を競い高め合ったりする機会を積極的につくっているのだ。情シスたちに今何が起きているのかを追った。

「情シスSlack」、1年半で参加者2000人

 情シスの間で存在感を示すのがビジネスチャットツールのSlackを使った「情シスSlack」だ。具体的には、社内システム担当者たちが情報共有するための場として開設したSlackワークスペースになる。有志が集い2019年4月9日に開設、2020年9月1日には参加者数2000人を超えた。

 ワークスペース内では議題に応じた複数のチャンネルが立てられ、活発な意見交換が行われている。議題は実にさまざまだ。高度な技術が求められるトラブルシュートや予算取りにおける経営層の説得方法などハードな話題から、「パソコン梱包(こんぽう)用段ボールの楽しいつぶし方」といったライトなものまで、情シスに関連するおよそ全ての事柄が扱われる。

情シスSlackにおけるやりとりの様子。議題は雑談から技術的な相談まで多様だ
情シスSlackにおけるやりとりの様子。議題は雑談から技術的な相談まで多様だ
(出所:情シスSlack)
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 参加者の多くは現役の情シスだ。勤務先の業種や規模は多様で、社名をオープンにしている人も伏せている人もいる。バックボーンを問わず気軽に相談し、助け合う温かさが情シスSlackの魅力だ。運営メンバーの1人、CM効果分析ツールを提供するサイカで情シスを務めるna2neko氏は「情シスSlackでのつながりは、会社を越えた同僚のようなもの」と形容する。

 開設のきっかけは、都内のIT企業で情シスを務める横山健太氏が、自身が困った際に気軽に相談できる場が欲しいと思ったことだ。米グーグルのグループウエア「G Suite」利用者が集まるイベントへ参加した際に呼びかけ、賛同した6人で運営を始めた。メンバーの入れ替わりを経て、現在は現役情シス5人で運営する。「当初『コミュニティー』とまでは考えておらず、想定以上に大きくなった」(横山氏)

 情シスSlack以前にも同じ技術や製品を利用する人が集まるコミュニティーは数多くあったが、情シスに焦点を当てたものは少なかったという。運営メンバーの1人、中小規模の企業で情シスを務めるEugeneK氏は「場がなくとも、情シス同士で情報共有したいという思いを抱えていた」と振り返る。実際、新規参加者の自己紹介用チャンネルには、情報交換の場が欲しかったという声が日々届いている。

 横山氏は「質問や回答を発信してくれる人たちによりコミュニティーが成り立つので、大事にしたいし感謝しかない。些細(ささい)な内容でも発信してくれるとうれしい」と語った。