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 「球状歯車」という言葉を目にしたのは、2021年6月だった。SNSサービスのTwitterを何気なく眺めていると、とげのついた玉のような物体がうねうねと動く様子が飛び込んできたのだ。ヒト型ロボットの肩関節を彷彿(ほうふつ)とさせることから、関連投稿が1万リツイートを超えるほどに反響を呼んでいた(図1)。

図1 球状歯車機構を組み込んだアクチュエーター
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図1 球状歯車機構を組み込んだアクチュエーター
多田隈理一郎氏と東北大学大学院情報科学研究科タフ・サイバーフィジカルAI研究センター准教授の多田隈建二郎氏、同特任助教の阿部一樹氏が開発する。出力軸となる球状歯車の中心で3本の回転軸は直交しており、原理的に回転範囲の制限はない。球面モーターは、ロボットアームの関節部分や、ドローン用カメラの画面揺れ防止に使うジンバル機構などに応用できる。(出所:多田隈理一郎氏)

 話題になったのは、山形大学と東北大学の研究チームが開発する、球状歯車機構を組み込んだアクチュエーター(以下、球面モーター)である。1台の球面モーターで全方向駆動(回転3自由度)を実現した事実にまず驚いたのだが、インターネット上での展開も予想外だった。3Dプリンターで球状歯車機構の自作を試みたという投稿が続出したのだ。

 記者が感じたのが、ハードウエアの開発がそれとなくソフトウエア開発に近づいてきていることだ。開発した技術を発表するとインターネットを通じて“拡散”され、「コピー」されてさらに広がる――。Twitterや3Dプリンターのような新時代の技術が、ものづくり業界に新しい風を吹き込みつつあるのかもしれない。

即反応でさらなる“拡散”

 球面モーターの存在が広がった流れはこうだ。最初のきっかけは、21年6月に開催された国際展示会「Japan Drone(ジャパンドローン) 2021」である。開発者の1人である山形大学学術研究院機械システム工学専攻准教授の多田隈理一郎氏の講演を聴いた参加者が、Twitter上で同技術を紹介し、反響を呼んだ。

 3Dプリンターで自作する人が増えるまでに盛り上がったのは、多田隈理一郎氏の反応が機敏だったことが大きい。同氏は講演から1週間もたたないうちに、動画投稿サービスYouTubeに球面モーターの解説動画を投稿したのだ。