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 治療薬やワクチンの開発、アプリを使った濃厚接触の可能性の通知、「密」の回避、オンライン診療、AI(人工知能)を使った画像診断支援ソフトなど、新型コロナウイルスとの戦いにITの活用が欠かせなくなっている。日本だけではなく世界中がそうだ。

 最近、新型コロナと戦うためのIT活用というテーマで外国人に立て続けにオンライン取材する機会があった。新型コロナを乗り越えるためには世界各国が連携することが必須だという思いを改めて強くした。

 例えば治療薬の開発。一から新薬を開発するのは時間がかかるため、世界中で既存の薬を新型コロナに転用できないかという研究がなされている。

53万種類以上の組み合わせをAIで解析

 シンガポール国立大学の医用生体工学部門を率いるディーン・ホー教授は、「IDentif.AI(アイデンティファイ)」というAIプラットフォームを使って新型コロナの治療に最適な既存薬の組み合わせと用量を割り出している。

 IDentif.AI は8年前に開発に着手し、5年前に使用を開始した。既にがんや糖尿病、結核など40種類の疾患で最適な薬の組み合わせを割り出すために使ってきた。今回、実際の新型コロナウイルスを使った薬剤の実験結果をAIで解析している。下図のように相互作用についての解析結果を3次元の曲面上で示すとともに、最適な組み合わせをランキングで表示する。

IDentif.AIを使って新型コロナの併用療法を最適化する。解析結果は3次元の曲面(右のグラフ)で示し、最適な組み合わせをランキングで表示(左、上から3番目のボックス)
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IDentif.AIを使って新型コロナの併用療法を最適化する。解析結果は3次元の曲面(右のグラフ)で示し、最適な組み合わせをランキングで表示(左、上から3番目のボックス)
出所:シンガポール国立大学

 ホー教授は、4月半ば以降、富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ薬「アビガン」やスイスのロシュの「タミフル」、米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」、米アッヴィの抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」など12の既存薬について、用量を変えながら53万種類以上の組み合わせの中から最適なものをAIで解析した。その結果、レムデシビルとカレトラの組み合わせが最も効果が高いと分かったという。

 日本でも5月に厚生労働省が承認したレムデシビルは「単体の薬としては新型コロナに最もよく効く薬だが、効果としてはそこそこだ」とホー教授は話す。カレトラはリトナビルとロピナビルという2つの薬剤を組み合わせた合剤で、IDentif.AIで解析したところ「新型コロナには比較的効果がないと分かった」(ホー教授)。 

 しかし「レムデシビルはロピナビルと組み合わせると好ましい相互作用を発揮した。さらにレムデシビルを一緒に使うことで、ロピナビルとリトナビルのよく知られた相互作用もさらに押し上げられた」(ホー教授)。レムデシビルとカレトラの併用については、臨床試験のプロトコル(試験実施計画書)を準備中だ。

 これ以外の薬剤の組み合わせについても研究している。「レムデシビルが入手しづらい場合に、よりアクセスしやすい別の薬剤を使いたいというニーズがある」(ホー教授)ためだ。ホー教授のもとには、世界中の複数の臨床チームからそれぞれのチームが関心を持つ複数の組み合わせについて問い合わせが来ているという。