全4419文字
PR

決済手数料だけじゃない、PayPayの戦略の要諦は…

 決済手数料については、仮に2022年3月期のPayPayの決済総額を6兆円として、1.6~1.98%の手数料率を乗じると単純計算で960億~1188億円となる。ただ、当初は中小加盟店向けに「3%振り込みますキャンペーン」などを展開するほか、大口の加盟店は相対契約のため1.6%より低い料率の可能性もあり、単純計算の決済手数料がそのまま同社の営業収益に上積みされるとは限らない。

 中小加盟店向け決済手数料の有料化とともに展開する打ち手の1つは、自治体との連携だ。同社は各地の市町村と協業して「あなたのまちを応援プロジェクト」と題したキャンペーンを展開。その市町村内の中小加盟店でのみ決済額の10~30%をPayPayボーナスとして消費者に還元している。地元の商店街の空洞化という自治体のペイン(痛み)に寄り添う提案をして、代わりに自治体の絶大な信用力をバックにつけ当地の中小店舗の加盟店拡大を図る。自前の営業担当者が門前払い覚悟で「ドブ板営業」するより、はるかに高効率な加盟店獲得につながる。

 もう1つは中小加盟店に対する、いわゆるフリーミアム(に近い)モデルだ。中小加盟店向けの決済手数料はこれまで3年間は無料、今後も1.6~1.98%と安く設定、CRMツール「PayPayマイストア」も月額1980円にとどめ、競合他社よりも安く導入できることを訴求して加盟を促す。そのうえで、オプションサービスを充実させて収益確保を図ろうとしている。

CRMツール「PayPayマイストア」を核に、PayPayが展開を計画する付加サービス。基本の決済手数料を安くしつつ付加サービスで稼ぐという、フリーミアムに近いモデルといえる
CRMツール「PayPayマイストア」を核に、PayPayが展開を計画する付加サービス。基本の決済手数料を安くしつつ付加サービスで稼ぐという、フリーミアムに近いモデルといえる
(出所:PayPayのオンライン会見動画を日経クロステックがキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば加盟店がPayPayマイストアを通じ、消費者に電子クーポンを配信する「PayPayクーポン」は、消費者がPayPayアプリでクーポンを使用して決済した場合、決済額の3%を徴収する。飲食店が消費者からPayPayアプリ経由で料理のテークアウトの注文を受け付ける「PayPayピックアップ」の手数料は決済額の8%だ。他にも同社は2021年度内に、各加盟店のスタンプカードを電子的に発行し、消費者のPayPayアプリ内に保管できる機能を提供するよう準備中だ。中小店舗が加盟しやすいよう初期導入の費用負担のハードルを低く設定しつつ、こうした付加機能で対価を徴収して収益を確保する戦略である。

加盟店がPayPayユーザーに対してクーポンを配信できる「PayPayクーポン」。同機能を利用する場合、決済額の3%の手数料がかかる
加盟店がPayPayユーザーに対してクーポンを配信できる「PayPayクーポン」。同機能を利用する場合、決済額の3%の手数料がかかる
(出所:PayPayのオンライン会見動画を日経クロステックがキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]
PayPayが2021年度内に提供開始予定のスタンプカード。多数の来店客が電子クーポンを保有するようになると、加盟店は脱退しづらくなるという副次的な効果もありそうだ
PayPayが2021年度内に提供開始予定のスタンプカード。多数の来店客が電子クーポンを保有するようになると、加盟店は脱退しづらくなるという副次的な効果もありそうだ
(出所:PayPayのオンライン会見動画を日経クロステックがキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 記者が個人的に注目しているのは、現在は大阪府内でのみ無料展開している飲食店向けの付加サービス「PayPayテーブルオーダー」である。来店客が飲食店の各テーブルに貼ったQRコードからPayPayアプリを呼び出し、料理の注文とPayPayによる決済までをスマホで可能にするサービスだ。来店客が注文時に店員を呼ばずに済むため新型コロナ対策になるし、店舗にとっては注文受け付けや精算といった店員のオペレーションを改善できる可能性がある。

 一方、PayPayテーブルオーダーの現在の仕様では来店客によるPayPay登録や、注文と同時の決済が必須となっている。その間口の狭さから、競合するShowcase Gigの「O:der Table(オーダーテーブル)」などより使い勝手を損ねているようにも感じる。今後、大阪府以外へも展開し有料化する際に、どれだけ使い勝手を改善してフリーミアムでの収益を最大化できるかが焦点となりそうだ。

反撃に出る競合他社、QR決済市場はまだ波乱含み

 このように、PayPayは過去3カ年、赤字覚悟の拡大路線できっちり成果を上げてきた。2021年8月時点で4100万人というユーザー数は、プラットフォームビジネスの反対側にいる中小店舗に対して大きな魅力となり、検討中の店舗は加盟しやすく、加盟済みの店舗は脱退しづらくなる力学が働く。半面、中小の店舗が抱えるペインに目を向ければ、フリーミアムによる各加盟店への課金拡大や売上金の月1回の振り込みなどはPayPayの弱点となり得る。

 PayPayの8月19日の会見以降、「楽天ペイ」「au PAY」「d払い」などの競合サービスが相次いで新規加盟店の決済手数料無料を打ち出しているのも、そうしたPayPayの弱点を見すえて反撃の余地ありと考えたからだろう。PayPayが次の2022年3月期以降、巨額の赤字と親会社からの資本注入を断ち切って名実ともに「持続可能な経営」へ転換できるのか。QRコード決済市場の行方は、まだまだ波乱含みと感じている。