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 華々しくデジタル庁が発足した2021年9月1日、デジタル庁が運営するある交流サイトが、ひっそりと休止した。政府と自治体職員がデジタル改革について意見交換する「デジタル改革共創プラットフォーム」である。

 「急に休止して困っている」と戸惑うのは、A市の幹部職員だ。休止の連絡があったのはその前日の8月31日だった。A市では周辺市町村や県の職員と、デジタル改革共創プラットフォーム内に非公開グループを作成し、日々情報共有や議論を行っていた。情報システム関連の課長クラスと係長クラスが参加。だが、休止によって、県や市町村との議論が急にできなくなったのだ。

 さらに、デジタル改革共創プラットフォームの公開の場では政府職員と自治体職員のやり取りの履歴も閲覧できるため、業務の参考にしていたが、これも突然見られなくなった。この職員が参考にしていたのは、例えば、ワクチン接種記録システム(VRS)利用に当たってのマイナンバーの扱いや、マイナンバーを含む個人情報を扱う技術的な仕組みや運用を体系的に説明して自己評価する手続きである特定個人情報保護評価(PIA)をどう行うかといった内容である。

「デジタル庁初めてのプロジェクト」

 デジタル庁は今後、ガバメントクラウドなどのシステムやプラットフォームを整備し、自治体や各省庁が利用するサービスの提供・運用者としての役割を担う。そのためには、ユーザーである自治体や他省庁の意見やフィードバックを得て、システムやサービスを改善していく取り組みも必要となる。これらは、民間サービス事業者が日常的にやっているものの行政機関はなかなかできていなかった。

 それらを進めるうえで活用するツールとして、デジタル改革共創プラットフォームは意欲的な取り組みと言える。そもそも、当時デジタル改革担当相だった平井卓也デジタル相が「デジタル庁初めてのプロジェクトとなる」と意気込み、開発したものである。

 当初はデジタル庁の前身である内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)が2020年12月中旬にFacebookグループ「デジタル改革共創プラットフォーム(β版)」として運用を始め、2021年4月には、行政機関用のLGWAN(総合行政ネットワーク)とインターネットからアクセスできるWebサイト版であるデジタル改革共創プラットフォームの運用が始まった。Webサイト版は両備システムズが開発した。

 A市の例からは、政府が自治体に提供するサービスとしてのデジタル改革共創プラットフォームが役に立っていたと評価できる点が2点ある。1点目は突然休止して困るほど、A市職員らが日常的に使っていたという点である。

 A市ではもともと、県や市町村とのやり取りにメールを使っていた。ただ、県とのやり取りが増えたり、新型コロナ対策でメールが煩雑になったりする中で、デジタル改革共創プラットフォームで県や市町村とやり取りをすることで、情報共有や議論がしやすくなったという。

 複数の自治体をまたいで議論や情報共有をするにはメールのほか、民間事業者のチャットツールなどがある。ただ、デジタル改革共創プラットフォームは無料のため、気軽に使えたという。

 2点目はユーザーであるA市職員らがほかのユーザーの動向を見ながら、便利な使い方を自ら見つけて使っていった点である。運用開始当時、政府も自治体もワクチン接種の準備に大わらわだった。中でも、IT室が開発したVRSの運用に関連して、IT室担当者や自治体職員は日々、デジタル改革共創プラットフォームで意見交換や議論を交わしていた。

 そうしたやり取りを確認する中でA市の職員らは、他県の職員らが非公開グループを作って県下の市町村を含めた職員らとやり取りをしていることに気付いた。そこで、A市では2021年6月から県や周辺市町村に呼び掛けて、組織の枠を超えた情報共有や議論のために使っていた。

 また、実際にデジタル改革共創プラットフォームでやり取りされた自治体からの意見をIT室が取り入れ、VRSの開発・運用に反映した例もあったという。