「開発工数は増えている」。これは電動四輪駆動(4WD)の採用で、前後のトルク配分をより柔軟かつきめ細かく制御できるようにした日産自動車の新型SUV(多目的スポーツ車)「エクストレイル」のパワートレーン開発者の言葉だ(図1)。
現在、自動車業界では、「ソフトウエア定義車両(SDV)」への転換を志向する自動車メーカーが増えてきている。SDVとは、主にソフトによって機能や特徴が決まる自動車である。ハードウエアありきで、特定のハードに合わせてソフトを個別に開発してきた既存の自動車と異なり、SDVではハードとソフトを分離し、開発したソフトをさまざまなハードの上で実行できるようにする。
ハードを抽象化するHAL(Hardware Abstraction Layer)などを導入することで、ハードの違いを吸収して共通のソフトを使えるようにするとの考えだ。だが、SDVでは、従来は機械的に制御していた部分を、ソフトによってより柔軟かつ緻密に制御できるような方式に置き換えることを狙う。すなわち、ソフトの開発が不要だった部分もソフトの開発が必要になり、冒頭で紹介したように開発工数は増加するとみられる。
実際、新型エクストレイルでは、新採用の電動4WDにおいて、「ドライブモードごとに、明確な差が分かるように味付けを変えている」(同開発者)という。すなわち、ドライブモードごとに異なる味付けを可能とする複雑なソフトを開発しているのだ。
確かに、電動4WDを搭載した新型エクストレイルに試乗してみると、コーナリングにおけるアンダーステアや、減速時のピッチング(車両が前傾になったり後傾になったりする回転運動)が抑えられている(図2)。コーナリングでは相対的に行きたい方向に的確に操舵(そうだ)でき修正操舵が少なくて済み、減速時はフラットな乗り心地で快適性が高まっているといった印象だ。電動4WDによって、走りが進化していることを体感できる。
同開発者によれば、同車においてリアに配分するトルクは、エコモードとノーマルモードでは燃費重視で少なめに、スポーツモードとSNOWモードではしっかりと加速できるように多めに設定するなど味付けを変えているとする。