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 この数カ月、あちこちで「メタバース」という言葉を目にする機会が増えた。メタバースとは、多人数が同時に参加し、自由に行動し、交流を図ることができるオンライン上の仮想世界のことである。

 以前からVR(Virtual Reality)関連を取材していた記者にとっては目新しくない言葉だが、今までアーリーアダプターたちのニッチな遊び場のような存在だったメタバースが急速に注目されはじめ、喜びとともに不安も感じている。メタバースの世界観は非常に大好きであるが、だからこそメタバースが“非日常”から“日常”のものになったとき、そこでの活動を面倒だと感じてしまわないかと考えたからだ。

 今のメタバースの盛り上がりの背景には、同分野への投資を大手企業が次々に発表したことがある。以前からメタバース構想を語る米Epic Games(エピックゲームズ)は2021年4月に10億ドルを調達。21年7月には米Facebook(フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEO(最高経営責任者)が「Facebookの未来はメタバースにある」と積極的に開発していることを明らかにした。海外報道によると、米調査会社Evercore ISIのアナリストであるマーク・マハニー(Mark Mahaney)氏は、その開発予算規模は50億ドルと推定する。日本国内でも、21年8月にグリーがメタバース事業に100億円の投資を表明し、世界で数億ユーザーの獲得を目指すとしている。

Facebookはバーチャル会議システム「Horizon Workrooms」を公開し、メタバースの実現に向けた取り組みを着々と進めている
Facebookはバーチャル会議システム「Horizon Workrooms」を公開し、メタバースの実現に向けた取り組みを着々と進めている
(出所:Facebook)
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 このように大手企業がメタバースへの投資を表明し、国際学会や技術者会議などの講演でもメタバースが取り上げられ、これらに引っ張られるようにメディアがメタバースを報道し始めた。世界中の企業もまるでマーケティング用語かのように「メタバースを実現する」ことを目的に掲げはじめ、一気にバズワードとして拡大した印象だ。

 現在メタバースと分類されるプラットフォームはコミュニケーション要素が中心である。仮想世界に3Dアバターで入り込み、そのアバターを自ら動かして交流する。キーボードとマウス、ゲームコントローラーで操作する場合もあるが、VRヘッドマウントディスプレー(HMD)やモーションキャプチャー機器で体の動きをそのままアバターに反映させて操作する場合もある。

 記者はメタバースに強い興味を持ち、プライベートでもそれなりに利用していたユーザーである。約2年前にこのコラムでメタバースに関連した記事を書いたことがある。VR空間で活動する際に、自由にアバターを作る、あるいは売買してアバターを手に入れ、自らの姿を変えられることが魅力の1つだった。今でもアバターの魅力は衰えていない。アバターの衣服だけを購入し、その部分だけ3Dモデルを変更するなど、現実のアパレルで自分の服を買って着替えるのと変わらないような使い方もできるようになった。

 加えてこの2年間に、コロナ禍の影響でVR空間でのイベント開催が加速したり、音楽ライブやゲームの世界観に入り込めるコンテンツが増えたり、プラットフォーム内でUGC(User Generated Contents、ユーザー生成コンテンツ)を利用可能な環境が整ったり、商取引可能なプラットフォームが拡充されたりと、メタバースが新たなビジネスプラットフォームとなることを示す事例が徐々に増えてきた。

 では、メタバースは、FacebookやTwitter、LINEなどのように多くの人が日常的に使うプラットフォームになり得るのか。記者の体験からは、まだまだ難しいというのが正直な感想だ。

 メタバース好きを自負する記者であっても、メタバースは非日常を体験する場であり、毎日毎日、深夜までずっとメタバースで交流を続けるほどのめり込んでいない。理由は2つある。

 1つは、主に参加しているコミュニティーがメタバースの外、つまり現実世界にあるからだ。今のメタバースは現実世界とは区分されたものになっている。メタバースを日常化するということは現実世界を捨てることになってしまう。もちろん利用者によって環境が異なり極端な例かもしれないが、記者にとって現時点ではあり得ない選択肢だ。

 もう1つは「人間が面倒くさがり」だからだ。