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 新型コロナウイルス感染症対策で切り札とされた接触確認アプリ「COCOA」を停止する方針が決まった。河野太郎デジタル相が2022年9月13日に会見で方針を明らかにし、アプリの開発と運用を担当してきたデジタル庁と厚生労働省が方針を確認したという。

 2021年2月に発覚した4カ月あまりも通知が届かなかったバグをはじめ、COCOAには当初から不可思議なバグが相次いだ。記者も必然的に心もとない開発態勢を注視するようになった。開発ベンダー選定の不透明さも拭えず、振り返ると2020年秋からは課題に焦点を当てた取材と記事の執筆が増えた。

「COCOAは開発当初からボタンを掛け違えた」(河野デジタル相)との指摘はその通りだ。同相の下でデジタル庁が主に担当するとみられる検証では、厚労省が報告書で検証していなかったベンダー選定など、最初期の過程と判断にはどのような問題と教訓があったかにも踏み込んでほしい。政府の検証が進む前に、記者が考える検証すべき点を挙げておきたい。

なぜ判定精度が「悪かった」のか

 COCOAの接触通知について、日本全体で判定精度を正確に捉えた統計はない。しかし実際に検査や陽性登録など運用に携わった保健所や医療関係者によると、判定精度は良好ではなかったとの証言は多い。

東京都の保健所が実施したCOCOA陽性者の調査
東京都の保健所が実施したCOCOA陽性者の調査
(出所:北区保健所)
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 COCOA運用の最初期である2020年8月に東京都内の31の保健所が共同で調査した結果では、感染者との濃厚接触の通知を受けて検査した人の陽性率はわずか0.2%だった。当時は保健所などでの検査能力が現在ほど高くなく、政府の会合ではCOCOAによる検査ひっ迫の恐れを保健所の代表者が訴えた。

 2020年8月の段階ではCOCOAが判定にバグを抱えていたなど品質が影響した可能性もある。しかし現在もあまり精度は高くないようだ。濃厚接触の通知を受けた検査で陽性だった人の割合は、「10%程度」という医療関係者の指摘もある。

 COCOAの品質が改善したならば、これがBluetooth通信を使った接触判定の限界なのかもしれない。あるいはオミクロン型など新型コロナウイルスの変異に接触判定のしきい値などが追いついていないのだろうか。

 どちらにしても開発者らによれば、COCOAの濃厚接触者の判定精度をシステムの運用者側で検証するのは困難だという。限界はあるかもしれないが、海外で効果を上げている例はあるか、高い精度を達成した運用例はあるのかが分かるだけでも、次のパンデミック(世界的大流行)に備えた準備には役立つ。