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 事業のグローバル展開を目指す方針も創業当初から変わっていない。2016年5月、投資ファンドのWorld Innovation Lab(WiL)などから総額約24億円の資金を調達。同年にはシンガポールなどに拠点を設けて海外向けサービスを始めた。

2016年当時、事業のグローバル展開を語る玉川氏
2016年当時、事業のグローバル展開を語る玉川氏
(撮影:陶山 勉)
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 「IoTが世界的に注目を集め、投資家からも1つのカテゴリーとして認知され始めた。一方で過剰な期待感を集めている面もあり、世界規模で具体的な解が求められている」。2016年9月、玉川氏は世界に事業展開する背景をこう語った。「クラウドを生かしたシンプルな通信サービスで、顧客にアイデアさえあれば手っ取り早くPoC(概念実証)を実施できる。IoTの基盤技術を顧客自ら持たずに利用できる、シェアリングエコノミーのような方向性を目指す」。

KDDIによる買収と葛藤、そしてスイングバイIPOへ

 一方、創業から6年の過程で徐々に変わっていったこともあるようだ。その1つが成長速度を維持・加速する手段の選択である。きっかけは2017年8月、KDDIが推定200億円で同社を買収したことだ。

 買収の話は玉川氏からKDDIに持ちかけたという。「経営者の仕事の1つは資金調達。2016年に海外へ進出し、次の資金調達の手段を探していた」。玉川氏は当時、買収に至った背景をこう語った。「KDDIとはどの通信キャリアよりも密な付き合いを重ねてきていた。前身の1つが国際電信電話で海外事業の基盤があり、クラウドへの理解も深い。(KDDIによる買収は)ロジカルに考えて最適な選択だった」。

 「ふう、やれやれ、という気持ち。創業から全力疾走してきて、リスクを取って加わってくれた社員や顧客、投資家にやっと1つの恩返しができた」。玉川氏は買収が決まった安堵の気持ちを吐露したと同時に、「まだ始まったばかり。通過点の1つにすぎない」と気を引き締めていた。

 2020年1月、毎年恒例の年間標語を決める際に、将来的にIPO(新規株式公開)を目指すと決定。成長戦略として打ち出したのが「スイングバイIPO」だ。宇宙探査機が惑星の重力を使って加速し、さらに遠くの目標を目指す航行手法になぞらえた言葉である。もともと2018年の標語だったが、IPOという目標を定めたのに合わせて改めて位置付けた。明くる2021年6月、ソニーグループや日立製作所、日本瓦斯(ニチガス)、WiLなど6社と資本業務提携を結んだのは、スイングバイIPOの具体策だ。

 ただ、6社から出資を受けた結果、KDDIの連結子会社であることに変わりはないものの同社による出資比率は下がった。一見すると親会社であるKDDIの買収が不調に終わったともとれる道を選んだのはなぜなのか。

 KDDIによる買収後も事業は成長を続けていた。それでも「グローバルの事業展開を目指す上で2つの選択肢があった」と玉川氏は明かす。KDDIの後押しだけで成長を目指すのか、ある程度リスクを取って他の出資企業を募り成長に向けた選択肢を増やすのか。玉川氏が選んだのは後者だった。KDDIによる買収当初も通過点と説明していた通り、1社だけの後押しで成長する方針を転換したわけだ。