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 背景には大企業傘下になることへの、スタートアップ経営者としての葛藤があった。「KDDIに買収されたとき、ソラコムの良さであるスピード感や企業文化が失われるのではないかと懸念していた。社外からもそう心配されるのではないかと分かっていた」。

 大企業との関係を維持しつつ様々な企業の力も得て成長を続け、将来的なIPOを目指すにはどうすべきか。玉川氏は成長に向けた悩みをKDDIの高橋誠社長に率直に打ち明けた。「趣旨は分かったしサポートしたい」。スイングバイIPOという戦略に基づいて成長を目指す方針について、高橋社長からは賛同を得たという。

6社との資本業務提携について取材に応じる玉川氏(2021年7月)
6社との資本業務提携について取材に応じる玉川氏(2021年7月)
(画像提供:ソラコム)
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 スタートアップの経営は毎日が意思決定の繰り返しだ。選択を間違えれば自分も社員も明日から路頭に迷いかねない分、大企業の経営者とは違ったプレッシャーがあるだろう。悩み葛藤し、ときには苦肉の策を講じる必要もあるかもしれない。玉川氏の決断からはスタートアップ経営者なら誰でも直面する課題が見えてくる。

一段高い試練、「怖い株主」相手に対峙できるか

 玉川氏の試練はまだ続く。スイングバイIPOを選んだら選んだで、今度はより多くの株主を相手に事業をかじ取りしなければならないからだ。

 記者はこれまでに加えて、ソラコムが今後も変えないでいられることに注目している。個別企業の要望を受け入れて機能や内容をつくり分けるカスタマイズをせず、グローバルのプラットフォームを維持できるかどうかだ。

 「GAFA」と呼ばれる世界的なプラットフォーム企業は、サービスを国や地域の言語に合わせるといったローカライズはしているが、個別の要望を受け入れて機能や内容をつくり分けるカスタマイズは原則としてしていない。その方法が事業を世界規模で展開するために効果的とみているからだ。規模こそ違え、ソラコムにも課題は共通する。

 ソラコムが顧客の要望を聞き入れないわけではない。むしろ逆だ。同社は創業以来、累計210件あまりの新サービスや新機能を提供してきた。ほとんどが顧客からの要望に基づいた機能強化という。これらを企業ごとに個別開発するのではなくシステムの基盤そのものに取り入れ、全ての顧客共通のサービスとして実装してきた。

 「新たに出資してくれた6社は、ある意味で怖いお客さん。だからといって、ある会社のための環境をつくってしまうとプラットフォームとしてあり続けられない。怖いお客さんの意見を、矜持(きょうじ)を持って跳ね返し続けなければならない」。玉川氏はこれまでより一段高い試練に挑む決意を示す。特定企業の要求が有用と考えれば、従来通り共通の機能とすべく「抽象度高く理解して、実装しなければならない」。

 創業から丸6年。人間で言えばようやく小学生の卒業が見えてきた段階にすぎない。変えなかったことと変えたこと、そして今後も変えないでいるべきこと。世界のソラへ羽ばたこうとするソラコムの動向を今後も追いかけたいと思う。