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 記者は日ごろから、テック系スタートアップに興味を持って取材している。中でも興味を引かれるスタートアップには、いくつか共通点がある。その1つが、業種や業務を問わない汎用的な基盤サービス、いま風に言うとプラットフォームを提供している点だ。

 日本発のプラットフォーム事業者としてサービスを提供するスタートアップの1社がソラコムだ。IoT(インターネット・オブ・シングズ)向けの通信サービスを手掛ける。

 記者は同社が創業した2015年当時から取材を続けてきた。この9月末でソラコムは事業開始から丸6年を迎える。取材に応じた創業者で社長の玉川憲氏の発言から、テック系スタートアップとして一貫して変えてこなかったことと、創業当初から変えたことを見ていこうと思う。その判断結果と、意思決定に至った選択や葛藤は、日本のテック系スタートアップの指針になり得ると考えるからだ。

クラウドとグローバル、創業当初から一貫

 まずソラコムが一貫して変えていないのは、IoT通信分野に「クラウド技術を活用してフェアで柔軟な料金体系を持ち込んだ」ことだ。初期費用なしの従量課金制で基本的なIoT通信サービスを利用できる。

 「IoTへの注目が高まっているものの、今のIT業界にはインターネット・オブ・シングズの”オブ”が存在しない」。2015年9月、事業開始当初のインタビューで玉川氏はIoTに対する問題意識をこう表現した。様々なモノをインターネットにつなぐための、リーズナブルな通信手段がないという意味だ。「無線LANは設定が面倒だし、携帯電話回線は最低契約期間が決まっていて多数のモノを接続するには使い勝手が悪い。MVNO(仮想移動体通信事業者)は事業開始の初期投資負担が大きく、スタートアップにはハードルが高い」。当時、玉川氏は既存の通信技術をこう総括した。

2015年当時、サービスを発表する玉川氏
2015年当時、サービスを発表する玉川氏
(撮影:日経クロステック)
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 玉川氏が出した結論は「クラウドをフル活用して、IoTの通信機能をソフトウエアとして開発、提供すること」だ。パケット交換から通信帯域の制御、顧客向けの管理機能まで、全てをAmazon Web Services(AWS)上に開発。「初期投資なしでスケーラブルなIoT通信システムを実現した」。使った分だけ料金を払い、必要に応じて処理能力を増減できるクラウドサービスと同じ仕組みである。

 玉川氏が米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)出身で同社のクラウドサービスのAWSを日本に持ち込んだ当事者であること、AWSの仕組みをヒントにソラコムのサービスを設計・開発したことは、IT業界ではつとに有名だ。ソラコムの通信サービスについては「格安のIoT通信」と形容されることが多いが、これは提供する価値の1つにすぎないという。

 ソラコムの契約回線数は300万、顧客数は2万に達した。AWSを日本で広げた立役者という玉川氏のネームバリューがソラコムの事業拡大に一役買ったのは確かだが、「様々な機能をクラウドにオフロード(肩代わり)させて、IoT機器向けには極力シンプルな機能のみを提供する」という設計思想が、多くの顧客に受け入れられた結果だろう。