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 新型コロナウイルス禍の第7波に見舞われ、経済への影響が長引く2022年夏。記者が取材したIT活用事例の中で2件、膝を打つものがあった。居酒屋「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングス(APHD)のモバイルオーダー導入事例と、東武鉄道の鉄道車両のIoT(インターネット・オブ・シングズ)活用事例である。両事例に共通するのは、事業の根幹を担う要素に対し「戦略的縮退」に踏み切り定量的な成果につなげた点だ。

 APHDでは塚田農場の店頭における接客を見直した。料理やお酒の注文を受けるモバイルオーダーシステムを導入し、代わりにフロアスタッフによる接客時間を削減した。飲食業にとってオーダー受け付けの接客は、その店の料理のこだわりやお薦めの地酒などを顧客に伝える大切な役割を担う。そしてもちろん、注文をどれだけ取れるかは店舗の売り上げに直結する、飲食業にとっての生命線である。

 そこにメスを入れる代わりにモバイルオーダーには徹底的にこだわり、結果として2021年12月の忘年会シーズンは売上高を前年同月比で3割以上増やしつつ、人件費は前年同月からほぼ横ばいにとどめた。

 東武鉄道の場合は、主力路線の1つである野田線(アーバンパークライン)の車両を減らすという経営判断に踏み切った。それも小幅なものではなく、同線を走る43編成の全てを6両編成から5両編成に減車するという思い切ったものだ。この経営判断を後押ししたのは、車両のあちこちに取り付けたセンサーデータをリアルタイムで収集・分析できるIoTシステムだ。

 新型コロナ禍以前から早朝から深夜まで全時間帯の列車の乗車率データを蓄積していたことが奏功し、新型コロナ禍以降に同線の乗客が約2割減少していることを把握。併せて新型コロナ禍の需要減を踏まえた複数の対策案について乗車率をシミュレーション。ダイヤを変更せず全43編成を一律に減車する形ならば、乗車率は新型コロナ禍以前の水準を下回り、乗客の利便性を損ねることがないと定量的に確認できた。結果として新型車両の発注減により、1両あたり1億円超という車両の新造費用を削減でき、将来の電力費やメンテナンス費用の圧縮にもつなげた。