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 「CSの目を使ってそれがなぜなのか、みんなで話し合ってみよう」。2022年7月11日、宮城教育大学付属小学校6年3組の「CS科」の授業で担任の上杉泰貴教諭はこう児童に呼び掛けた。

 上杉教諭が述べたCSとはコンピューターサイエンスの略。同校は2019年度からCS科の前身「CSの時間」を始め、現在6年生は前期10、後期10の時数をCS科の授業に充てている。2020年9月からは同校と、プログラミング教育の推進に取り組むNPO法人みんなのコードによる実証研究プロジェクトとして展開されており、コンピューターサイエンス教育の授業の実践、研究、カリキュラム開発の役割を担う。2030年からの次期学習指導要領における情報活用能力の在り方について、このプロジェクトの研究結果を基に提言するともしている。

 小学校課程でプログラミング教育が必修化されたのは2020年度。始まってからおよそ2年だが、既にその「先」が動き出している。同校の滝野澤清史校長はCS科について「(次の学習指導要領が出る)2030年をターゲットにした教育の基盤プラス情報活用能力を育てていく教科になるだろう」と話す。プログラミング教育の先の情報教育とはどのようなものか。冒頭の呼び掛けがあった2022年7月11日の授業を垣間見てみよう。

とっかかりはフェイクニュース

 同校のCS科の授業はコンピューターやプログラムを題材に、探求的な学習を通して情報の科学的な理解を促し、コンピューターを前提とした情報活用能力を育むことを目指している。当日の授業は単元「インターネット上の情報の特徴を調べよう」を学習するもので、偽情報、いわゆるフェイクニュースとの関わり方を考えられるようにする狙いで組み立てられていた。

「CS科」の授業をする上杉泰貴教諭
「CS科」の授業をする上杉泰貴教諭
(撮影:日経クロステック)
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 授業ではまず電子黒板に「仙台市内で熊が出没」というニュースを映し出した。そしてこのニュースで伝えたいことは何かを上杉教諭は児童に問う。児童からは「警告」「気をつけて」といった意見が出てきた。その次に電子黒板に映し出されたのは、SNS(交流サイト)に投稿されたライオンが路上を歩く写真だ。投稿には「地震のせいでうちの近くの動物園からライオンが放たれたんだが 熊本」とのコメントが付されている。

 実際、この投稿は2016年4月に発生した熊本地震の直後、Twitterに投稿された偽情報だ。写真は熊本ではなく海外のもので、この投稿者は動物園の業務を妨害したとして熊本県警に逮捕されている。当時多くのメディアが報道したため偽情報だと知る人も多いだろう。ただ授業を受けている児童は当時、小学校に入学する前。おそらく初めて目にする。それでも児童からは「ほんとう?」といった疑いの声が上がっていた。

 授業は種明かしをしないまま進み、「熊」と同じように「ライオン」についても何を伝えたいのかを上杉教諭は問いかけた。児童からは「(ライオンを逃がした動物園に対する)怒り」「場所が詳しく書かれていないので警告ではなく共感」といった意見が出てくる。ここで「ライオン」が多くの人に広まった偽情報だと明かし、あらためて偽情報として何をしたかったのかを問うと、児童からは「(投稿者は)注目されたかった」「人気者になりたい」などの声が上がった。

 ここでいったん上杉教諭は「正確でない情報」について整理する。正確でない情報には、「誤った情報」と「偽の情報」があり、特に後者については拡散され、多くの人の目に触れることで生活の混乱を招いたり、人々の対立を生んだりといった社会への影響が大きいと説明。そして、なぜ偽情報による社会への影響が大きくなっているかを上杉教諭は児童に問う。ここで出てきた呼び掛けが冒頭の「CSの目」だ。

Chromebookを使いながら学ぶ
Chromebookを使いながら学ぶ
(撮影:日経クロステック)
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