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 2020年春以降、新型コロナウイルス対策として在宅勤務をする企業が増えた。さらにこうした企業は、ITを含めた在宅勤務環境を整備するだけでなく、労働時間制も見直すべきだ。在宅勤務に取り組む先進企業を取材してこう考えるようになった。

 いい例が、化粧品メーカーのランクアップや、米製薬大手メルクの日本法人であるMSDの2社だ。2社とも柔軟な働き方ができる労働時間制を、在宅勤務とともに使えるようにしている点が特徴的である。

柔軟な働き方ができる労働時間制のなか、在宅勤務を進めるMSDの社員
柔軟な働き方ができる労働時間制のなか、在宅勤務を進めるMSDの社員
(出所:MSD)
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午前5時から午後10時のうち契約時間分働けばよい制度

 ランクアップは2020年2月から、100人いる全社員を対象に在宅勤務を始めた。程なくして、スーパーフレックス制度と呼ぶ労働時間制度を導入した。

 「朝5時から夜10時までのうち時間帯を選んで、8時間といったあらかじめ会社と取り決めた時間分、働いてよい」という制度だ。これだと早朝に仕事をある程度済ませてから、朝食や子供の世話のためなどに時間を確保しやすくなる。

 この制度が生まれたのは、2020年3~5月にかけて臨時休校などがあって「自宅にいる小さな子供の面倒を見ながら、在宅勤務をしなければならない」といった状況に直面した社員が少なくなかったからだ。100人いる社員のうち80人ほどが女性、40人が子供を持っていることから、こうした課題が際立ったようだ。

 小さな子供がいる家庭の場合、在宅勤務時間中に、子供の世話が急に必要になることは多い。「勤務時間中なのに」と社員の焦りも募りがちだ。しかし、スーパーフレックス制度は仕事の合間に、子供の世話をしやすくなるし、社員の焦りもなくせる。

 ランクアップの社員からはこのほか、「在宅勤務によって、子供に自分の仕事ぶりを見せてあげられるようになって良かった」という意見が寄せられている。オンラインの打ち合わせなどで上司に褒められている様子を見て、「ママが褒められている。ママってすごいんだという気持ちになってくれているようだ」という。ランクアップの在宅勤務は、子供が「ママのような大人になろう」といった前向きな意欲を持つきっかけにもなっているようだ。

「裁量労働制や在宅勤務はキャリアを中断させない」

 ランクアップのスーパーフレックス制度と同じく強く印象に残ったのが、MSDが1999年から導入している裁量労働制だ。働いた時間ではなく成果を重視する制度である。 MSDは在宅勤務制度も2009年に導入済みだが、2020年3月、新型コロナ対策として、原則全社員が在宅勤務を行う方針を掲げた。対象はMSDの社員や派遣社員など3300人である。裁量労働制と組み合わせて働けるようにしていることで、社員は様々なメリットを感じながら仕事をしているようだ。

 2020年7月に育児休業から復帰したある社員は「保育園での慣らし保育時などは、通常であれば休暇取得が基本だ。しかし、裁量労働と在宅勤務のおかげで業務の合間に子供の送り迎えをすることができた」と話す。「休暇取得が基本」なのは、1日の就業時間が決まっている労働時間制の場合の話だ。保育園の送り迎えの時間が就業時間と重なるといった理由から、休暇を取得して送り迎えをする必要が出てくる。

 しかし、MSDでは裁量労働制で働けるので、この社員は休暇を取得しなくても、仕事の合間に送り迎えができる。子供をお風呂に入れた後で仕事を再開するなど柔軟な働き方をすることで、出産前と同様のパフォーマンスが発揮できているという。

 社員はさらに「このような働き方ができなければ、子供が生後3カ月半の段階で復帰はできなかったと思う」と振り返る。「仕事に早く復帰したい思いが強かったので、育児との両立ができる環境は本当にうれしかった。裁量労働制によって勤務時間に縛られないことや、在宅でも仕事ができる環境はキャリアを中断させない点で良い」と続ける。

 この社員のようにMSDには新型コロナ下でも、仕事と育児を両立する社員が多いようだ。「子供の学校や習い事の送り迎えなどと、仕事のスケジュールを柔軟に組める」「在宅で移動時間が減ったために、娘を早く迎えに行って早く寝かせられる」「学校から戻った子供にお帰りといって迎えてあげられる」といった利点が、社員から挙がっている。