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 「紙の雑誌をやめないでほしい」

 当社の入社1年目、2年目の若い記者たちが私にこう言った。2021年10月11日から22日にかけてオンラインイベント「日経クロステック EXPO 2021」を開催する。そのコンテンツの1つとして、受講者にとってEXPOのガイドとなるような雑誌「日経クロステックDX特別編集版」(以下、DX特別編集版)を作った。

 プロジェクトベースでメンバーが集い、私は編集長として参加した。今回の雑誌作りで、普段の業務とは異なる挑戦をしたので紹介したい。

「読む日経クロステック EXPO」

 DX特別編集版はデジタルトランスフォーメーション(DX)を題材にしたワンテーマ・マガジンだ。EXPOの出展ジャンルが「エンタープライズDX」「製造業DX」「IoT(インターネット・オブ・シングズ)」「働き方改革」などすべてDX関連であることに合わせ、あらゆる業界やジャンルで進むDXについて参加者の皆さんに理解を深めてもらうことを意図して製作した。いわば「読む日経クロステック EXPO」である。

 出版・印刷業界の専門用語で恐縮だが、冊子が出来上がった際の厚みや大きさをイメージしやすくするための白紙のサンプルを「束見本(つかみほん)」と呼ぶ。印刷物が指定した色に刷り上がるかどうかを確認するための試し刷りを「色校(いろこう)」という。既にある定期刊行物であれば束見本をもらう必要がないし、ニュース性の高い紙メディアでは校了をできる限り遅くするために色校を省略するケースも多い。

 今回は束見本や色校をもらったので、いい機会だと思って若い記者たちに見せながら紙の雑誌の作り方を簡単に解説した。彼らは目を輝かせながら聞いていた。「今、初めて自分は出版社に入社したのだと実感した」「研修でこういう話をもっと聞きたかった」と感想を話してくれた。そして「紙の雑誌をやめないで」と口をそろえて言うのだった。世間で紙の雑誌が相次いで休刊している状況を見て不安に思っているらしい。

「日経クロステックDX特別編集版」はスマートフォン片手に見るIoTマガジンだ
「日経クロステックDX特別編集版」はスマートフォン片手に見るIoTマガジンだ
(写真:日経クロステック)
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 20代の人たちはそもそも紙メディアを読むのだろうか。そう聞くと「読みますよ。デジタルより紙のほうが、情報が頭に入ってきやすいですから」と言う。出版社に入社するくらいだから普通の人よりも紙メディアに親しんできたのだろうとは思うが、「周りの友達も皆そうです。若者は紙メディアを読んでいます」と力説する。「手の込んだ図版は特に、紙で見ないとよく理解できない」と、40代の私が日々思っていることと全く同じことを言っていた。

 紙メディアが低迷している理由は、デジタル時代にあってもそれ以前と変わらない作り方をしている、つまり前例踏襲によるマンネリ化のせいもあるのではないだろうか。だとしたらデジタル時代に合った紙メディアとはどんなものか。これが編集チームの問題意識だ。そのために2つの編集方針を掲げた。

紙メディアの持つ高い視認性を追求

 1つは、デジタルメディアにはない紙メディアの良さを徹底的に追求することだ。DX特別編集版は全164ページのうち約7割に当たる112ページを、日経クロステックで好評だった55のDX最新事例を再構成した。再録するに当たり、紙メディアの持つ高い視認性をさらに生かし、要点をとらえやすくするにはどうすればいいかを考えた。