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 ホンダは2021年9月30日、小型ロケット事業への参入を表明した。地球低軌道へ投入する小型人工衛星の輸送ニーズの獲得を目指す。打ち上げ後にロケットの一部を着陸させ、再使用することで低コスト化を図る。想定しているペイロードは1t。自動運転技術の開発などを通じて培った制御・誘導技術を生かして19年末から開発を進めており、30年までの試験機打ち上げを目指すという。

既存プロダクトのコア技術を生かして研究開発を進める再使用型小型ロケット
既存プロダクトのコア技術を生かして研究開発を進める再使用型小型ロケット
(図:ホンダ)
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 これは果敢なチャレンジで困難もつきまとうかもしれないが、記者は大きな可能性のある事業だと思う。なぜなら、衛星の打ち上げ数は20年に世界で約1000基だったのが、30年には5000基に増えるとの予測もあるほど、超成長産業だからだ。

 もちろん、日本の宇宙輸送は米国に比べ大きく遅れているのは事実である。その差を示す端的な例が、21年9月半ばに米Tesla(テスラ) CEOのイーロン・マスク氏が率いる米SpaceX(スペースX)が成功させた4人の民間人だけによる世界初の有人宇宙飛行だ。「Inspiration4」と名付けられたこのミッションでは、4人が乗船したSpaceXの自律運航宇宙船「Crew Dragon」を同社のロケット「Falcon 9」で打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)より高い高度575kmに運んで、3日間地球を周回した。

民間人4人を乗せた宇宙船を搭載したFalcon 9の打ち上げの様子
民間人4人を乗せた宇宙船を搭載したFalcon 9の打ち上げの様子
(写真:SpaceX)
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 Crew Dragonは完全自動の宇宙船で、カリフォルニア州にあるSpaceXの管制センターから監視・制御されている。だから、乗員が操縦に関与することはない。ミッションの映像を見る限り、乗員の様子は無重量空間で浮いている以外は飛行機の乗客とさほど変わらなかった。目の前の大型ディスプレーに表示されたリアルタイムの機体情報(位置、目的地、軌道上の環境など)に見入ったり、船外の圧倒的な景色にただはしゃいだりしていた。

「Crew Dragon」のキューポラ観測窓からの景色を楽しむ乗員
「Crew Dragon」のキューポラ観測窓からの景色を楽しむ乗員
(写真:SpaceX)
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 もちろん、宇宙空間へ行くのは生命の大きなリスクを伴う。それを覚悟の宇宙飛行士ならまだしも、民間人をISSより高い高度に輸送し、本格的な宇宙旅行を実現するには、安全性に対する相当な確信が必要だ。今回のミッションの裏には、想像もし得ないような技術と知見の蓄積があるはずだ。

 ところで、無人仕様と有人仕様のロケットは何が違うのか。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のWebサイト「ファン!ファン!JAXA」には、こう書いてある。「人間を宇宙に送り活動を行うためには、ロケットの打ち上げや飛行中に宇宙飛行士の生命を守るためのさまざまな環境維持システム、およびロケット自体の徹底的な高信頼性化が必要です。現在の日本の主力ロケットである『H-IIAロケット』を有人仕様にするためにはさらに高い信頼性が必要であり、いくつもの技術的な壁を乗り越えなければなりません」。つまり、日本が誇る国産ロケットでも有人となると大きなチャレンジが必要だということが分かる。

 1つ加えておきたいのは、今のSpaceXがあるのは、NASA(米航空宇宙局)、つまり米国政府の戦略と開発委託における莫大な資金援助によるところも大きい点だ。同社に関しては、どうしてもカリスマ経営者のマスク氏の手腕に注目が集まりがちだ。確かに同氏が掲げる大きなビジョン、スピード経営、資金力を生かした優秀な宇宙系人材の獲得も躍進の大きな要素だが、政府が一定の調達を補償することで産業基盤を安定させる「アンカーテナンシー」によって莫大な資金を獲得し、それを元手に技術力を磨いてきたのである。スペースシャトルが11年に引退して米国がISSへの輸送手段を失うなかで、その部分を自国の民間企業に委託するという長期戦略の成果の1つがInspiration4なのだ。