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 2021年8月に開かれた、とあるスポーツイベント。会場には観客はおろか選手の姿すらなく、そこにいるのは数台のロボットとスタッフのみだ。同時期に行われた世界的なスポーツイベントである東京2020オリンピック・パラリンピックとは今はまだ比べるべくもないが、「そういう競技もあるよね」と当たり前に受け入れられている将来をイメージせずにはいられないイベントだった。

ロボットが互いの風船を割り合う「スポーツ大会」が開かれた
ロボットが互いの風船を割り合う「スポーツ大会」が開かれた
(撮影:日経クロステック)
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 そのスポーツイベントの名は「第2回バイオジェン杯スポーツ大会」。記者が取材したのは2日間にわたる大会の1日目に開かれた「OriHimeスポーツ大会」だ。1チーム3体のロボットからなり、3チームが勝敗を競う総当たり戦だ。大会の様子は動画投稿サイトYouTubeでライブ配信された。

 ロボットは人の上半身のような姿でカートに乗って移動でき、高さはおよそ30cmといったところだ。背中には風船が、正面には武器となる針が取り付けられている。選手はロボットを操作して自分チームの風船を守りながら相手チームの風船を割っていく。フィールドや互いの陣地にも風船が設置してあり、それらを割ることでも加点され、より多くの点数を集めたチームが勝ちというのが基本的なゲームのルールとなる。

風船を割る直前のロボットの様子。特殊な風船を割ることで復活できるなど、戦略的要素も大きい
風船を割る直前のロボットの様子。特殊な風船を割ることで復活できるなど、戦略的要素も大きい
(撮影:日経クロステック)
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 風船を割られたロボットはその場で行動不能となり、制限時間内に全メンバーの風船が割られたチームはその場で負けとなるが、特殊な風船を仲間が割ることで行動不能になっていたロボットが復帰できるといった仕組みも設けられている。こうした細かなルールによって、単にロボットの操作がうまいか下手かだけで勝敗が決することはなくなり、ゲームに奥行きをもたらしている。

 とはいえ、ゲームだけを観戦してもこのイベントの本質は見えてこない。これはあくまでスポーツイベントであり、「選手」が誰なのかというのが最も重要な点だ。選手は会場にはおらず、遠隔でロボットを操作している。チーム内での戦略会議ももちろんオンラインだ。そして彼らにはある共通点がある。それは、全員が脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)の患者であるという点だ。