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 約10年にわたる開発の中で、特に苦労したのはリムドライブの防水性の確保だった。モーター全体を水中に沈める構造のため、ローターやステーターといった電気部品を樹脂でモールディングする必要がある。

 樹脂に亀裂が入れば、海水によってすぐにさびて故障してしまう。ただし、モールディングを厚くしすぎると、ローターとステーターの距離が離れてモーターの効率が落ちる。このため、「水密性や耐久性を確保しつつモールディングを薄くするための試行錯誤を繰り返した」(同氏)。その結果、ローターとステーターの隙間を数mmまで短くできたという。

次の展開はマリン版CASE

 リムドライブ方式の電動推進システムに組み合わせる電池は、電圧48Vの鉛蓄電池である。電池の質量や船への搭載性を考えると、「リチウムイオン電池の方がいいのでは」と思ってしまうが、そうではないらしい。前島氏いわく、「むしろ鉛蓄電池の方がいい」と。

 欧州での発売に先行して実施している、北海道の小樽運河での実証運航が何よりの証拠だ(図4)。同実証では、全長9.8mで最大定員46名の船に、リムドライブ方式の推進システムを2機搭載している。

図4 小樽運河での運航の様子
図4 小樽運河での運航の様子
(写真:ヤマハ発動機)
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 そして、組み合わせた鉛蓄電池の質量は500kgにも達する。実はこの電池が、船を安定させるのに一役買っている。実証に使う船はもともと21馬力のエンジンを搭載していたもので、安定用の重りとして鉛のインゴットを1000kgも忍ばせていたという。このため、鉛蓄電池は大きな問題もなく搭載できたのだ。

 「HARMOは自動操船システムとの親和性が高い。マリン版CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の取り組みを加速させていきたい」。約10年の開発をへて実用化にこぎつけた今、前島氏は次の展開を思い描く(図5)。低速特化のニッチな電動推進システムの航海は続く。

図5 HARMOの開発を担当した前島将樹氏
図5 HARMOの開発を担当した前島将樹氏
ヤマハ発動機マリン先行開発部PJ開発推進G HARMOプロジェクトリーダー。(写真:ヤマハ発動機)
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