全2661文字
PR

 「脱エンジンの機運がマリン業界でも強くなっている。自動車業界と同様に、欧州を中心として規制強化の議論が活発化してきた。既に、特定地域へのエンジン船の乗り入れを制限する動きもあるようだ」

 狙い通りの答えを引き出せた――。だったら格好よかったのだが、そんなことはない。想定していた記事のシナリオから大きく離れていく中で、焦って二の矢三の矢を放っていた時に拾った言葉だ。

 発言の主は、ヤマハ発動機マリン先行開発部PJ開発推進G HARMOプロジェクトリーダーの前島将樹氏。同社が2022年春に欧州で販売を開始する、電動の次世代操船システム「HARMO(ハルモ)」の開発者である。

 ヤマハ発動機に今回の取材をお願いしたきっかけを告白しておくと、個人的な興味である。筆者は趣味で、船をレンタルして釣りに出ることがある。HARMOが「釣りに使えそう」と思い、確かめずにはいられなくなってしまった。

 HARMOの特徴は高い静粛性と操作性である(図1)。モーター駆動によって魚に与えるプレッシャーを軽減し、釣果につながるのではないかと妄想した。

図1 HARMOを搭載した船のイメージ
図1 HARMOを搭載した船のイメージ
「リムドライブ方式」と呼ぶ電動推進システムを搭載し、高い静粛性と操作性を実現したという。(写真:ヤマハ発動機)
[画像のクリックで拡大表示]

 HARMOの説明資料には、「2機掛けの場合、ジョイスティックを横に倒すだけで、横方向への移動が可能となり、難しい離着岸などをサポートします」ともある。頻繁に海に行けるわけではないので、筆者の操船技術はなかなか進歩しない。苦手な離着岸を技術の力を借りて克服できたら、と淡い期待を寄せた。

ゆっくり巡行する用途に特化

 そんな妄想と期待を込めて、取材の冒頭に「HARMOの用途として、釣りってどうですか?」と素直に聞いてみた。

 「釣りですか……。港から近い浅場や湖など、シーンによっては使えるかもしれませんね」。前島氏の返答はすっきりしない。どうやら外したようだ。

 理由は、HARMOが「高速で走り回る用途に向いていない」(同氏)から。船の大きさや形状などによっても異なるが、HARMO搭載艇の最高速度は10km/hほどと遅い。確かに、様々なポイントを巡るような釣りでは使いづらい。前島氏の説明に納得しつつ、記事のプランが崩れつつあることに焦る。平静を保つふりをしつつ、別の切り口を探ってみることにした。

 気になったのは、「ゆっくり巡行する用途に特化した」(同氏)という点。かなりニッチだ。ヤマハ発動機の新型電動システムが活躍できるシーンはどこなのか。