「ネットの世界が新しいステージに切り替わる雰囲気をひしひしと感じる」――。2018年9月27日、LINEの出沢剛社長CEO(最高経営責任者)の口調は熱を帯びていた。同日に出沢CEOは、ブロックチェーン技術がインターネットやスマートフォンに続くパラダイムシフトを起こすという未来予測に賭け、「LINE Token Economy」構想を大々的に発表。来るべき新時代のリーダーを目指す決意を内外に示した。
ただしLINE Token Economyはブロックチェーン技術をベースに経済圏を構築する「トークンエコノミー」で核となる部分を未完にしたままの船出となった。未完はLINEの責任というよりは法規制に起因するが、それでもLINEが打って出た事実に「世界で勝負する」という同社の気概を感じた。
トークンエコノミーは利用者の貢献意欲をかき立てる
インターネット黎明期に「Instagram」の登場とブームを予見するのが難しかったように、新しい技術やサービスがもたらすインパクトを明確に思い描くのは困難だ。トークンエコノミーも同じで、現時点は黎明期であり、はっきりとした世界観が浸透しているわけではない。実在する複数のトークンエコノミーを眺めると、サービス提供者がブロックチェーン技術をベースに「トークン」と呼ばれる独自の「価値」を発行し、サービスに貢献する利用者に対して報酬という形で配布するケースが多い。
ビットコインの仕組みが、比較的イメージしやすいかもしれない。ビットコインネットワークの運営に欠かせないマイニング(仮想通貨の発掘)という作業に参加し、マイニングに成功した利用者に対し、約10分間に1度の頻度で12.5BTC(ビットコインの単位)を報酬として配布している。ビットコインも独自の「価値」を持ったトークンの1つといえる。
肝となるのは、利用者がサービスに貢献すると報酬を得られる点。そのインセンティブが利用者にサービスに貢献しようというモチベーションをもたらす。結果、サービスの魅力がより高まる。サービスの魅力が高まればインセンティブとして受け取るトークンそのものの価値も上がり、ますます利用者の貢献意欲をかき立てる――。こうした好循環が生まれるわけだ。
LINEが重視するのはこの点だ。「オンラインサービスの利用者はコンテンツを消費するだけではない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や口コミサイトなどでは、利用者自身がコンテンツの生成者になるという変化が起きている」。出沢CEOはこう前置きしたうえで、「本来なら貢献者に対して金銭的還元があってしかるべきだが、今のところ不十分だ」と指摘した。
この不十分さに対するLINEの答えがLINE Token Economyなのだ。今回LINEはブロックチェーンを自社開発するだけでなく、その上で稼働するDApps(分散型アプリケーション)が集まる場も構築した。そこで独自トークンを発行し、DAppsの利用者に配布する。
加えて自前のDAppsの開発に着手しており、本番提供を視野に入れている。Q&Aサービスや商品レビューサービスなど、年内に5つのDAppsを提供する方針で、既にベータ版を公開しているサービスもあるという。
LINE Token Economyのようなプラットフォーム型サービスでは、サードパーティー製のアプリをいかに呼び込めるかが成否の鍵を握る。実証実験やPoC(概念実証)止まりの取り組みが圧倒的に多いブロックチェーンの領域であるトークンエコノミーで、自らが嚆矢(こうし)となって実サービスの創出に当たる姿勢に本気度が垣間見える。
では、何が未完なのか。トークンエコノミーの要となるトークンそのものである。