全3279文字
PR

 国際通信の99%を担う海底ケーブルが、空前の建設ラッシュを迎えている。近年、米Google(グーグル)や米Meta(Meta Platforms、旧Facebook)など巨大IT企業(ビッグテック)が海底ケーブル投資の主役となって、太平洋や大西洋を横断する大型海底ケーブル建設プロジェクトを相次いで進めているからだ。今や海底ケーブルは、ビッグテックのデジタル覇権を支える地政学的な武器と化している。

 そんな海底ケーブルの製造や敷設について、実は日本企業が世界3強の一角を占めていることはあまり知られていない。フランスAlcatel Submarine Networks(アルカテル・サブマリン・ネットワークス)、米SubCom(サブコム)と並んで世界シェアトップ3に名を連ねるのが日本のNECだ。NECの子会社であるOCC(横浜市)が北九州市に持つ海底システム事業所こそ、海底ケーブルの世界有数の生産拠点である。同社はこれまでに約39万キロメートル(km)の海底ケーブルを生産してきたという。実に、地球から月までの距離に相当する長さだ。

 今回、記者はOCCの海底システム事業所を見学できたので、写真を中心に、知られざる海底ケーブルの製造工程を紹介しよう(図1)。

図1 NECの子会社であるOCCの海底システム事業所(北九州市)
[画像のクリックで拡大表示]
図1 NECの子会社であるOCCの海底システム事業所(北九州市)
世界有数の海底ケーブルの生産拠点だ(写真:日経クロステック)

約90キロメートルの長さを一気に製造

 現在の海底ケーブルは、石英ガラスでできた髪の毛ほどの太さの光ファイバーを数十本束ねてつくられる。世界最高クラスの海底ケーブルは、1本のケーブルに24組48本の光ファイバーを束ねたタイプだ。実に0.5ペタ(P)ビット/秒という桁違いのデータを伝送できる。データ容量としては1秒間でDVD約1万3300枚を伝送できる能力に相当する。

 海底ケーブルは浅瀬用の「外装ケーブル」と深海用の「無外装ケーブル」の主に2タイプがある(図2)。実は深海用の海底ケーブルの方が、細くてシンプルな構造だ。光ファイバーを束ね、その周りを鋼ワイヤで補強し、銅の被膜で一体化。さらにポリエチレン(PE)の外装をコーティングすることで深海用の無外装ケーブルが完成する(図3)。

図2 海底ケーブルは主に2種類
[画像のクリックで拡大表示]
図2 海底ケーブルは主に2種類
白い外観のケーブルが深海用の「無外装ケーブル」、黒い外装を施したケーブルが浅瀬用の「外装ケーブル」だ(写真:日経クロステック)
図3 ケーブルの製造工程
[画像のクリックで拡大表示]
図3 ケーブルの製造工程
銅の被膜工程、ポリエチレンによるコーティングの工程(LW工程)、さらに場合によっては外装工程というステップを踏む(写真:日経クロステック)

 深海用の海底ケーブルは、水深8000メートル(m)まで対応する。水圧はかかるものの、実は深海の方が潮流の影響は少なく、ポリエチレンの外装程度でも十分耐えられるという。ちなみに海底ケーブルの設計寿命は25年。一度、海底ケーブルを引くと、四半世紀にわたって使い続けられる品質が求められる。

 浅瀬用の海底ケーブルは、深海用の海底ケーブルの周りを外装用の鋼ワイヤでさらに補強し、外装用の被膜処理を施すことで完成する。浅瀬は漁船の網や船舶の錨(いかり)によって、ケーブルが傷つくことがある。そのため頑丈な構造が求められるという。

 それでは実際の海底ケーブル製造工程を見ていこう。まずは浅瀬用と深海用で共通となる銅被膜までの工程だ(図4)。

図4 銅被膜までの作業を一気に進め、直径3メートルの巨大なドラムに巻きつけていく
[画像のクリックで拡大表示]
図4 銅被膜までの作業を一気に進め、直径3メートルの巨大なドラムに巻きつけていく
現在この工程でつくられている海底ケーブルは、世界最高クラスの24組48本の光ファイバーを束ねたタイプという(写真:日経クロステック)