ルネサス エレクトロニクスの柴田 英利氏(代表取締役社長 兼 CEO)は、メディアと市場アナリストに向けたオンラインイベント「Progress Update」(2022年9月28日)に登壇し(図1)、リストラの連鎖から成長路線に転じた軌跡を語った。さらに、2030年に向けた目標も明かした。同年には時価総額を現在の6倍にするなどとしている。
Progress Updateは同社の方針や戦略を語る秋のイベントで、同じ趣旨の春のイベント「Analyst Day」と同様に年1回開かれている。過去のProgress UpdateやAnalyst Dayでは、リストラ(人員削減や工場閉鎖)、企業買収、自然災害や火災による工場の被害、全世界的な半導体不足、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻による影響など、語るべき(すなわち、メディアや市場アナリストから質問がでそうな)トピックがあった。それに対して今回は、半導体不足が山を越えた感があったり、そのほかの懸案事項が解決したりあまり変化がなかったりで、「以前のProgress UpdateやAnalyst Dayの時に比べると大きな事象がない」(柴田氏)状態だった。
そこで柴田氏は今回、同氏がルネサス入りした2013年から現在までの同社の変遷を振り返ったり、少し先を見据えた目標などを紹介したりした。「これまで話してきた内容の繰り返しもある」(同氏)としたものの、まとまった形で過去の軌跡を語ったり、8年先のような長期展望を見せたりしたことは、記者の記憶ではほとんどない。この記事(記者の眼)では、それらを紹介する。
本題の前に、同氏が入社する以前のルネサス エレクトロニクスを簡単にまとめておく*1。ルネサス エレクトロニクスは、2010年4月にルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが合併して誕生した。前者のルネサステクノロジは2003年4月に日立製作所と三菱電機の半導体部門が合体して創立された。後者のNECエレクトロニクスは2002年11月にNECの半導体部門が切り離されて誕生している。ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は創業当初から順調とは言い難かったが、2011年3月の東日本大震災の際に8工場が被災して操業停止になったことなどにより、苦境に陥るようになっていった。2013年に状況の改善を狙って国策投資会社の産業革新機構(当時)が乗り出し、ルネサス株式の69.16%を持つ筆頭株主になった。同年に、オムロンの会長だった作田久男氏がルネサスの代表取締役会長兼CEOに就任し、本格的なリストラが始まった。
上述したように2013年に柴田氏はルネサス入りしている。具体的には2013年10月に社外取締役(当時は産業革新機構に所属)に就任、同年11月にはルネサスへ移籍して取締役執行役員常務兼CFOとなった。同氏はリストラに関わり、余剰人員や経費の削減を進める一方で、再生を狙ってグローバル化策を練った(図2)。グローバル化策の第1弾は米Intersil(インターシル)の買収であり、2016年9月に発表し2017年2月に完了した。同氏はIntersilを「米国企業ながらルネサスと似たカルチャーを持ち、最初に買収するには良い相手だった」と評している。買収第2弾は米IDT(Integrated Device Technology)で、2018年9月に買収を発表し、2019年3月に完了した。同氏はIDTの人材に注目していたようで、例えばIDTでPresident、Global Operations兼CTOだったSailesh Chittipeddi(サイレシュ・チッティペディ)氏は、現在、ルネサスに2つある事業本部のうちの1つ「IoT・インフラ事業本部」の本部長を務めている(執行役員常務を兼務)。IDT買収の完了から約3カ月後に柴田氏は代表取締役社長 兼 CEOに就任し、その後も英Dialog Semiconductor(ダイアログセミコンダクター)などを買収した。「半導体業界全体が好調だったこともあり、成長路線に乗ることができた」(同氏)