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2018年9月には「関空水没」

 大規模な高潮災害がなかったのは、たまたま――。この指摘が正しいことを証明する出来事が起こったのは、18年9月のことだった。大阪湾に位置する関西国際空港などの人工島や埋め立て地を水没させた、台風21号による高潮・高波だ。

 25年ぶりに「非常に強い勢力」で日本に上陸した台風21号による高潮・高波は、関空の1期島のほぼ全域を浸水させた。さらには、強風で流されたタンカーが対岸を結ぶ連絡橋に衝突して約3000人が関空島で孤立するという、ハリウッド映画さながらの光景が繰り広げられた。

 「事実は小説よりも奇なり」ということわざのとおり、自然災害は人間の想像の斜め上をいく。関空水没は、高潮が過去の災害ではなく現在進行形のリスクであることを突き付けた。台風21号による被害を踏まえて関空で実施しているかさ上げなどの防災対策の事業費は、実に約540億円に上る。

 ちなみに、筆者を含む3人の記者が共同で執筆した21年10月25日発行の書籍『私たちはいつまで危険な場所に住み続けるのか』では、高潮・高波による関空水没などの詳細から水害対策の在り方まで、徹底的にリポートした。興味が湧いた方はぜひ、手に取ってみてほしい。

1期島が水没した関西国際空港。写真右奥の2期島は1期島よりも地盤が高く、浸水被害を免れた。2018年9月4日撮影(写真:国土交通省)
1期島が水没した関西国際空港。写真右奥の2期島は1期島よりも地盤が高く、浸水被害を免れた。2018年9月4日撮影(写真:国土交通省)
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 今、高潮の脅威を語るうえで重要なのは、河川の氾濫による水害と同様、気候変動の影響で被害の拡大が懸念される災害の1つであることだ。気温や海水温の上昇に伴って強い台風が増加したり、海面水位が上昇したりすることで、臨海部の浸水被害が大きくなる恐れがあるといわれている。

 高潮による被害が懸念される三大湾(東京湾・伊勢湾・大阪湾)には、577km2もの面積の海抜ゼロメートル地帯に400万人超の人口や企業の資産が集中しているため、そのリスクは決して軽視できない。大規模な被害を受けて物流機能が停止すれば、日本経済に与える影響は計り知れない。土木学会が18年にまとめた「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」では、東京湾巨大高潮による資産被害を64兆円、経済被害を46兆円と見積もったほどだ。

 18年の台風21号の経験を踏まえて、大阪湾に面する大阪府や兵庫県は高潮対策に本腰を入れている。東京湾に面する自治体でも、ハード・ソフト両面の対策はもちろん、あまり認識されていない高潮のリスクを周知する活動に、一層力を入れる必要があるだろう。日本沈没は防ぎようもない災害だが、東京水没の被害を抑えることは十分に可能だ。