VR(仮想現実)技術は医学生を救うばかりではなく、教育の在り方そのものを変えてしまうかもしれない――。そう筆者が感じたのは、日本医科大学(日医大)とVR関連のスタートアップであるジョリーグッド(東京・中央)が取り組む、医学部4年生を対象としたVR臨床実習を取材したときのことだ(図1)。
病院などでの臨床実習は医師になるためには不可欠だ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で実施が難しい状況にある。実施できた場合でも制限があり、十分に実地教育が受けられないことがほとんどだ。全日本医学生自治会連合(以下「医学連」)が2020年10月20日に発表した実態調査によれば、臨床実習に参加できた学生であっても回答者の半数以上が「病棟への立ち入りができなかった」という。
日医大大学院医学研究科教授の横堀將司氏とVRシステムを開発するジョリーグッドは、VR臨床実習という形でこの課題の解決に向かっている。20年8月末、医学部4年生約60人を対象に実施したVR臨床実習では、ジョリーグッドが開発したVRライブ配信システム「オペクラウドVR」を用いて救急外来の現場をリアルタイム配信した(図2)。
仕組みはこうだ。まず実習室に置かれた救急患者を模した実習用人形の上部に、周囲を撮影できる360度カメラを設置する。360度カメラで撮影した映像を、設置した専用サーバーからWi-Fi経由で、医学生の装着する複数のVRゴーグルに診療の様子を伝送する(図3)。
VRゴーグルを着けることで、指導医の実際の動きを全方位映像で体験できる。医学生はVRゴーグルを通して臨床現場での医師の動きや、場の緊迫感に触れられる。それと同時に、自ら患者の症例を判断する。リアルタイム配信のため、VRゴーグルを外してPCを用いて患者の容体などをWebチャットで質問できる。VRで自由に観察できたこともあってか、参加した医学生は質問に積極的で、症例も見事に的中させていた。