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 現在、世界各地で石炭が逼迫し、それらの調達コストや石炭由来の火力発電(石炭火力発電)の発電コストが急騰して、特に中国では電力供給が不足して計画停電が頻繁に実施されているというニュースを聞く。

 その理由としてしばしば説明されるのが、新型コロナウイルス感染症で落ち込んだ経済が再開して電力需要も急増する一方、欧州で偏西風が蛇行して、風力発電の発電量が想定の2~3割も減少したこと。このほか、オーストラリアと中国の対立で石炭の需給がタイトになったとか、2022年2月に北京とその近郊で開催予定の冬季五輪前までは中国政府が大気汚染対策のために石炭火力発電を抑制しているといった報道もある。一方で、中国政府が五輪期間中の電力需要増に備えて、石炭の供給を強化しているという一見正反対の情報もある。

 これらはおそらく、石炭の逼迫と電力の需給バランスを崩す短期的に要因としてはいずれも正しいのだろう。ただ、もっと本質的な、中長期的なトレンドの変化を無視しては、本当の全体像は見えてこない。

 中長期的トレンドとは、再生可能エネルギー、特に太陽光発電の発電コストが急速に低下していることだ。2019年には石炭火力発電のコストを割り込んだことが、大きなニュースになった。

 このことは、長らく再生可能エネルギーを過小評価し続けてきたといわれる国際エネルギー機関(IEA)も事実として認めざるを得なくなった。IEAが2020年に発行した報告書「World EnergyOutlook 2020」のエグゼクティブサマリー(日本語版)からやや長めに引用すると、「過去10年間にコストが大幅に低減したことで、太陽光発電はほとんどの国々で、新規の石炭火力、ガス火力発電所よりもコストが低くなり、太陽光プロジェクトはこれまで見られなかったほど低コストの電力源となっている。STEPS(STated Policies Scenario、政策シナリオ)では、2030 年までの世界全体の電力需要の増加分の80%を再生可能エネルギーが供給すると見込んでいる。水力は、引き続き最大の再生可能エネルギーの電源であるが、太陽光は、2022 年以降毎年普及率の新記録を更新すると予測され、再生可能エネルギーの成長をけん引する」と記載している。

再生可能エネルギーが化石燃料由来の火力発電よりも安くなる
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再生可能エネルギーが化石燃料由来の火力発電よりも安くなる
2027年以降は出力を安定化させる蓄電池のコストを加えても化石燃料由来の発電コストよりも安くなる。(図:Carbon Trackerの資料に日経クロステックが日本語訳をつけて作成)

 その一方で、IEAは石炭火力発電について同じ文書で、「発電目的の石炭利用は電力需要の下方修正の影響を大きく受け、石炭の産業利用も経済活動の停滞によって抑えられる。石炭のフェーズアウト政策、再生可能エネルギーの台頭、天然ガスとの競合により、2025 年までに世界全体で 275GWの石炭火力発電が運転停止となると見込まれる(2019年合計の13%相当分)。この内、米国が100GW、欧州は75GWである」と、太陽光発電と石炭火力発電の主役交代を明確にした。

 発電事業者にとって、より発電コストの低い電力源が急増している中、二酸化炭素(CO2)対策を迫られて発電コストが上がりかねない石炭火力発電はこれ以上新たな投資はできない存在だ。下手に投資を増やせば近い将来、「座礁資産」といわれる事実上の大きな負債になる可能性が高い。このため、石炭火力発電からはできるだけ早く足を洗いたいというのが多くの発電事業者の本音だろう。その結果として、短期的な電力の需給バランスの変動に対応できないほどに、石炭の備蓄や石炭火力発電設備を減らした、あるいは需給バランスからみると必要だった投資や増設を抑制してしまった、というのが今回の石炭逼迫の背景になっている可能性が高そうだ注1)

注1)中国の石炭火力発電は現在も新設が相次いでいるが、中国ではそれを大きく上回る勢いで、再生可能エネルギーの導入が進んでおり、設備容量で見た石炭火力発電の比率は低下している。