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 「年間140円の電波利用料を払いながら、月額10円のチャージだと逆ザヤになる」

 ソフトバンクは2018年9月28日、IoT(インターネット・オブ・シングズ)機器向けの通信技術「NIDD(Non-IP Data Delivery)」の試験サービスを始めたと発表した。冒頭の発言は、その発表会で宮川潤一副社長が料金について述べたものだ。

 ご存じの方も多いと思うが、携帯電話事業者は携帯電話の端末1台あたり年間140円の「電波利用料」を政府に納めている。全てが端末による負担ではないものの、2017年度に携帯電話事業者が支払った電波利用料の総額はNTTドコモが167億円、KDDIが114億円、ソフトバンクが150億円だった。決して少ない金額ではない。

 IoT機器も携帯電話と同じ電波を使って通信していれば同様に電波利用料がかかる。IoT機器は今後増加の一途が見込まれており、そうであれば携帯電話事業者が負担する電波利用料は右肩上がりに増えていきそうだ。負担が大きいと利用者の料金に跳ね返ってくるかもしれず、通信料金が高止まりすればIoT市場の成長の勢いをそぎかねない。場合によっては携帯電話事業者が「逆ザヤ」で提供するような事態になる――。宮川副社長の発言はそんな状況を指しているようだ。

 ただこの発言は額面通りに受け取れない面がある。ソフトバンクにとってはそうかもしれないが、NTTドコモやKDDIには当てはまらないからだ。IoT機器の増加は数年前から予測されていた。電波利用料についても負担が無限に増加し続ける状況にならないような策が既に講じられているのはあまり知られていない。ここではIoTと電波利用料の関係について、NIDDの話を交えつつ整理したい。

NIDDで確実にIoT機器は増える

 宮川副社長が「月額10円」と述べたのは、ソフトバンクが2018年4月に開始したIoT向けLTE規格「NB-IoT」による通信サービスの料金である。条件付きだが最も安い場合で端末1台あたり月額10円になる。9月28日に発表されたNIDDはNB-IoTを無線通信に使うため、この料金が該当する。

 NB-IoTは「LPWA(ローパワー・ワイドエリア)」に分類される通信方式の1つである。LPWAは電力の消費が少なく、広域をカバーできる通信方式の総称で、携帯電話と同じく免許が必要な周波数帯域(ライセンスバンド)を使う方式と、免許不要の帯域(アンライセンスバンド)を使う方式がある。NB-IoTは前者である。ソフトバンクの場合、NB-IoTの通信サービスは同社のLTEのサービスと同様、900MHz帯あるいは2.1GHz帯を使う。

 公共の電波を使う際の法律である電波法の上では、NB-IoTで通信する機器は携帯電話と同じ「無線局」に分類される。電波法の規制を受けるため、NB-IoTの機器は携帯電話事業者が電波利用料を負担する対象となる。

 一方、新たに発表されたNIDDはインターネットの通信規約であるIP(インターネットプロトコル)によらない方法でデータを伝送する通信技術である。2018年6月に携帯電話の標準化作業を進める団体である3GPP(Third Generation Partnership Project)によって標準規格として定められた。

 NIDDが想定しているのは大容量のデータを通信するような用途ではない。例えば水道やガスのメーターといった機器での利用を想定している。通信の頻度も容量も少ないが、広いエリアで使えて、しかも電池交換なしで数年間稼働する、といったケースだ。

 ソフトバンクはNIDDの利点として、「セキュリティーのさらなる向上」「消費電力の削減」「大量展開の容易さ」の3つを挙げている。

 NIDDは制御用の通信路でデータを送受信し、IPアドレスを持たないためインターネット側から端末を特定できない。IPを使わず外部から「隠蔽」されているので暗号化も不要。そのための処理のオーバーヘッドがかからず、電力消費も少なくて済む。IPを使わないため通信の「ヘッダー」も省け、データ量を減らせる。機器側の設定もシンプルで電源を入れればすぐに使えるようなる――。まさにあらゆるモノをつなぐために必要な要素を埋め、「1兆個IoTデバイス時代へ」を掛け声だけでは終わらせないと思わせる技術である。