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 2020年は、長年にわたり趣味で鑑賞してきた演劇の上演が、新型コロナウイルスの感染拡大で相次いで中止された年であった。21年はどうなるだろう。コロナ禍の収束を祈念せずにはいられない。

 これまでに見てきた演劇の中で、09年1月初演の野田秀樹作・演出の「パイパー」は特に記憶に残っている演目の1つだ。松たか子と宮沢りえのダブル主演だった作品そのものに加え、公演パンフレットの内容も印象深いものがあった。

 パンフレットには作品と直接の関係がない内容の記事も載っていた。作者の野田氏と岡田武史・サッカー日本代表監督(当時)との対談だ。

 野田氏は高校の部活動で演劇部に、岡田監督は中学校でサッカー部に入部したことが、その後のキャリアにつながっている。しかし、意外なことに両者ともその分野を当初から志望していたのではないという。野田氏が高校に入って最初に所属したのはサッカー部で、岡田監督も当初は野球部への入部を考えていた。野田氏は「人生は転部がきっかけで変わる」と評した。

野田秀樹氏が芸術監督を務める東京・池袋の東京芸術劇場(写真:日経クロステック)
野田秀樹氏が芸術監督を務める東京・池袋の東京芸術劇場(写真:日経クロステック)
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「i-Conの申し子たち」の共通点

 筆者は日経コンストラクション20年10月12日号の特集「i-Conの申し子たち」の取材で、この野田氏の警句を思い出した。というのも、取材を担当した土木技術者の6人中3人は、転部のような経験を通じて、ICT(情報通信技術)などで設計や施工を効率化する「i-Construction」に取り組み始めていたからだ。

 例えば、三井住友建設の高岡怜氏は、担当業務が当初の橋梁設計から技術本部でのシステム開発へと大きく変わった。ICTについて当初は苦手意識を持ちながらも、やがて協業相手のICT企業から厚い信頼を得るまでになった。

 首都高速道路会社の神田信也氏も、一般的な土木関連の部署からi-Con関連の部署への異動を経験し、技術者として新たな飛躍に向かった。パスコの金キョンチェ氏は韓国出身で、建築設計を専攻していた日本の大学を休学して帰国。兵役を務める間にドローンによる3次元測量を知り、大学卒業後の進路を決めた。

 ICTの専門家だったわけではない土木技術者でも、努力と柔軟性によってi-Conの担い手になれるのは、建設産業の大きな希望だ。演劇界ほどではないにせよ、建設業界もコロナ禍で痛手を受けている。21年にも待ち受けているかもしれない未知の苦難に備えて、今後も新しい技術を貪欲に取り入れ、変わっていくことが求められている。

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