2020年春以降、新型コロナウイルス感染症対策の1つとして普及したテレワークの動向を追っている。在宅勤務を大規模に実施するなど、多くの企業が取り組みを本格化させて1年半ほどたつが、依然として「出社勤務のときとは違って、相手の状況が分からず、コミュニケーションが取りづらい」「テレワークで生産性が下がった」といった課題を抱えるケースは多い。
テレワークに取り組むビジネスパーソンの中には、こうしたコミュニケーションや生産性などの課題に直面したとき、「テレワークはだめだ」と諦めて、出社勤務に戻すケースも少なくないようだ。
しかし、この「テレワークはだめだ」という諦めがテレワークをだめにすると記者は考えている。というのも、テレワークに積極的に取り組むテレワーク先進企業では、コミュニケーションや生産性などの課題に直面しても、策を講じて乗り越えているからだ。「テレワークはだめだ」と感じたとしても諦めずに対策を講じているので、テレワーク先進企業でテレワークはだめになっていないのだ。
コミュニケーションの課題はチャットの使い方で解決
一例がキリングループである。2020年4月、およそ1万人のグループ従業員を対象に原則出社を禁止して在宅勤務をすることにした。このとき、在宅勤務では、同じ部署にいる他の従業員の動きが把握しづらくなるといった課題に直面した。この課題について、キリングループの営業部門では、出社時にオフィス内で交わしていた挨拶や会話を、ビジネスチャットのテキストメッセージで再現する工夫を凝らすことで解決した。「(営業活動に)行ってきます」「ただいま戻ってきました」「きょう得意先でこんな出来事がありました」といった内容だ。
関連記事 テレワークで社内の対話が激減、解決のカギは「前のめり」のツール利用テレワーク先進企業では生産性も向上している。スウェーデンの病院施設向け設備・医療機器メーカー、ゲティンゲの日本法人であるゲティンゲグループ・ジャパンは2020年3月から全従業員を対象にテレワークを推奨している。同社が2021年4月に発表した10カ国でオフィス勤務をしているゲティンゲの従業員を対象に調査した結果によると、70%以上が「テレワークによって生産性が向上し、ワークライフバランスにプラスの影響があった」とした。
関連記事 「オフラインには戻らない」、強い決意で電子化すればテレワークの生産性は上がる一般のビジネスパーソンを対象にした別の調査では、テレワークによって生産性が上がったと答えた人は2割台にとどまった。それに比べるとゲティンゲグループ・ジャパンの調査結果はとても高い割合だと言える。同社によると従業員の業務を見える化して共有したり、コミュニケーションをこまめに取ったりする地道な取り組みが現場に定着していることなどが生産性向上につながっているという。
「だめだ」となった後にどう行動するかも重要
現場でビジネスパーソンが「テレワークはだめだ」という気持ちになったとき、どのように行動するのかも重要だ。特に職場の上司が「テレワークをしている部下の仕事の進捗状況がつかめない」といった課題に直面してこの気持ちになったとき、間違った行動を取ると部下に悪影響を及ぼしかねない。
東京大学医学系研究科精神保健学分野による「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)」の第4回調査の結果によると、テレワーク環境下、「就業時間中に上司から過度な監視を受けた」と回答した人は13.8%だった。過度な監視とは、上司が部下に対して、常にパソコンの前にいるかをチェックしたり、仕事の進捗報告を頻繁に求めたりする行為を指す。
関連記事 広がるリモートハラスメント、上司による過度な監視が横行上司も部下もオフィスに出社して勤務する場合、上司はオフィスを見渡すだけで、部下の様子をすぐ確認できる。しかし、部下が離れた場所に分散して働くテレワークではこうした方法では確認できない。まさに「テレワークはだめだ」という気持ちに上司がなる場面だ。