電池交換を「筋トレ」にするな――。今から2年以上前の2019年7月、記者はこのタイトルの記事を日経クロステックで公開した。
当時、ホンダが18年11月に投入した電池交換式の電動(EV)スクーター「PCX ELECTRIC」、さらには海外勢が手掛ける同様の機構を持つEVバイクに数多く試乗することができた。まるで乾電池のように電池パックを入れ替えて、10秒以内に再発進できる仕組みに多大な可能性を感じたことを覚えている。
交換式電池パックなら、航続距離が“無限”であるかのように連続して走れる。最新性能の電池パックに手軽に載せ替えられるので技術進歩の恩恵を受けやすい。1個の電池パックを多用途で使い回せばコストに優れる上、環境にも良い。
利点は多いものの、実際の試乗を通じて記者はどうしても交換式電池パックの重さが気になった。どれも質量は5kg以上で、中には10kgを超えるものもある。交換時、思わず「まるで筋トレだな」とつぶやいてしまったほどだ。
腰より低い座席下に搭載する10kg超の電池パックを持ち上げるその動きは、スポーツジムでのダンベル上げをほうふつとさせる。そして、電池パックの搭載個数に応じて同じ動作をくり返す点も筋トレに近い。
新型は「0.6kg」軽量化
もちろん、各社の交換式電池パックが市場投入を優先した初期段階のものということは理解していた。技術進歩に伴い軽量化も進むだろう。記者は軽くて使いやすい電池パックの登場を待ち望んでいた。そして21年10月末、先代モデルの投入と記者の試乗体験から約3年の時を経て、ついにホンダが新型モデルを発表した。
質量は10.3kg。先代モデルから「約0.6kgの軽量化に成功した」(ホンダ二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 チーフエンジニアの中川英亮氏)という。先代モデルの取材時に開発責任者級の技術者が語っていた「目標は5k~6kg」に比べてまだ2倍近い重さだが、ホンダは一歩ずつ軽くて交換しやすい電池パックの実現に向かっている。
そもそも、なぜ10kgを超える重さになってしまうのか。それは安全性に配慮した設計を貫いているからだ。例えば、先代モデルでは円筒型のリチウムイオン電池セルを組み合わせて保持器に収め、強度を高めるために電池管理システム(BMS)と共に補強骨格で囲っていた。さらに同骨格を丸ごと外装で覆い、EVバイクに関する国際規則「UN-R136」が求める、高さ1mから自然落下させても発煙・発火しないという性能を満たした。
「海外勢の交換式電池パックに比べて安全性能は確実に高い」(ホンダ技術者)という自信があり、定めた安全基準は新型モデルでも変更はない。新型モデルでは基準の範囲内で内部構造を見直した。より多くの円筒型電池セルを組み込むため、他の機構部品の小型化に取り組み、部品配置の最適化に努めたという。