中国の自動車メーカーが、エンジン技術の強化に本腰を入れ始めた。「中国=電気自動車(EV)」の印象が強いが、EVの中核である電池産業の育成に一定のめどが立ったと判断したのだろう。次はハイブリッド車(HEV)というわけで、その中核となるエンジン技術の獲得に躍起になっている。日本の自動車関係者の間では「中国はエンジンを諦めてEVに走った」という見方がささやかれてきたが、危うい間違いだ。
中国の自動車技術会に相当する汽車工程学会は2020年10月、35年を想定した技術ロードマップを発表した注1)。乗用車パワートレーンの比率として、35年にEVや燃料電池車(FCV)などの新エネルギー車を50%以上にする目標を記した。
一方で注目を集めたのが、残る50%については燃費で50km/L(WLTCモード)の乗用車にするとされることだ。エンジン車では到底難しい燃費値で、事実上、HEVを意味する。
日本で最も燃費性能が高いトヨタ自動車「ヤリス」のHEVで、36.0km/L(WLTCモード)。50km/L(WLTC)というのは極めて高い目標値で、ヤリスのように高出力モーターを利用したHEVであることは当然で、さらなる工夫がなければ実現しない。
中国は「NEV(新エネルギー車)規制」を導入してEVを重視しており、今後のロードマップでは近い将来に「EVを100%にする極端な目標を掲げる」という見方が意外とあった。今回の半分がHEVという現実的な見積もりが登場する背景には、恐らく、欧州中心に検討が進む自動車のライフサイクル全体でCO2排出量を評価するLCA(Life Cycle Assessment)を見据えたことがあるのだろう。
中国は、60年までにCO2の排出と吸収を同じにする「カーボンニュートラル(炭素中立)」を実現する構想を打ち出した。本気で挑むのであれば、走行中だけで評価するCO2排出量を、LCAに変えることは避けられない注2)。すると、EVとともにHEVが欠かせなくなる。LCAでは発電時のCO2排出量などを考慮するため、EVとHEVの排出量にほとんど差がないとされるからだ。
EVとHEVが長期的に並び立つ可能性があるとの考えは、環境面の理由にとどまらない。例えばホンダは、世界の地域によって異なるが、50年時点のLCAの環境性能と総保有コスト(Total Cost of Ownership)の両面で、HEVとEVが拮抗すると試算した。中国が今後の長期ロードマップでEVとHEVが半々と考えるのは、LCAを重視し始めた世界の潮流に沿ったものといえる。