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 こうしたアナログ的な計算は、かつてはそこかしこに見られた。ゼロ戦(零式艦上戦闘機)の設計にも使われた計算尺はその代表例だろう。

 デジタルコンピューターの登場以降、効率や正確性で劣るアナログ計算は多くが淘汰された。だがその後も、こうしたアナログ的な計算は「自然計算」という分野として研究が進んだ。

 同分野について会議メンバーに講義した東京大学の萩谷昌己情報理工学系研究科教授によれば、自然計算は「自然の中で観察される計算過程と、自然に触発された人為的(人により設計された)計算」と定義されているという。自然現象を使って何らかの計算モデルを再現する、あるいは自然現象に触発された計算モデルをデジタルコンピューターで実行するのが自然計算だ。

 後者の例は生物進化の仕組みに触発された「進化的計算」や、脳神経細胞に触発された「ニューラルネットワーク」などがある。前者の代表的な例としては、量子現象を利用した「量子コンピューティング」や、分子の反応を計算に応用する「分子コンピューティング」がある。

 現代のデジタルコンピューターも電子に関わる自然現象を使っている点は違いなく、電子回路以外の現象を活用した自然計算については「Unconventional Computing(型破り計算)」とも呼ばれる。その代表例が量子コンピューティングだが、他に萩谷教授はこうした計算の例として、ボールの力学的な運動でチューリング完全な計算を実現する「ビリヤードボールコンピューティング」、粒子の流れで計算する「粒子コンピューティング」などを挙げた。

 こうした自然計算の研究が今、再び脚光を浴びつつある。グーグルが量子超越性を実証してみせた量子ゲート型の量子コンピューターに加え、第3次AIブームのけん引役であるニューラルネットワークを非デジタルの手法で実現する研究も進んでいる。

 例えば米ウィスコンシン大学などの研究チームは2019年7月、光学素子を使った光回路でニューラルネットワークの計算を再現し、手書き数字の認識を実現してみせたとする論文を発表した。これらは自然現象(脳神経回路)に触発された計算モデル(ニューラルネットワーク)を別の自然現象(光回路)で再現した、2重の意味での自然計算と言えるだろう。

 こうした自然計算の研究を、米国防高等研究計画局(DARPA)も後押ししている。「Nature as Computer」と呼ぶ18カ月の研究プログラムを立ち上げ、2019年8月に具体的な研究テーマの募集を始めた。極超音速飛行のシミュレーション、大規模分散センシング、ネットワークの最適化など、古典的なモデルでは解決できない問題に解を与える研究を支援する。