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 「欧州企業は環境対応への宣伝が実にうまい。お世辞にもうまいとは言えない日本企業とは対照的だな」──。世界最大の樹脂・ゴムの展示会「K2022」(ドイツ・デュッセルドルフ、2022年10月19~26日)を取材し、記者はこんなことを考えるようになった。ドイツMercedes Benz(メルセデス・ベンツ)が実用化した再生ドアハンドルを目の当たりにしたことが大きい(図1)。

図1 Mercedes Benzが実用化した再生ドアハンドル
図1 Mercedes Benzが実用化した再生ドアハンドル
展示のために緑に着色している。廃棄材を有効活用した。(写真:日経クロステック)
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* Kは樹脂分野で世界の動向をリードする展示会。シンプルで印象的なこの名称は、樹脂のドイツ語「Kunststoff」の頭文字から来ている。Kは循環経済(サーキュラーエコノミー)の旗を掲げており、それを形にすべく具体的な施策の立案や技術開発に欧州企業がまい進している。

 今回のKで特に目に付いたのが、樹脂を完全リサイクルしようという姿勢だ。使用済み後に廃棄したり焼却したりしている樹脂をできる限り減らし、新たに造る製品の材料として循環的に再利用する。その仕組みの構築と、そのために必要な技術開発に力を入れている欧州企業の動きに驚かされた。

図2 再生ドアハンドル
図2 再生ドアハンドル
ガラス繊維強化PA6でできている。通常のドアハンドルと同じく射出成形で造る。(写真:日経クロステック)
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 樹脂の完全リサイクルが実現すれば、資源循環となるため化石燃料由来の原料の使用を削減でき、その分、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)に寄与する。廃棄樹脂の焼却処分がなくなって二酸化炭素(CO2)を削減できる。海洋プラスチックゴミやそれによるマイクロプラスチックも減らせて、環境汚染や健康被害も抑制できる。良いことずくめのようだが、事はそう簡単にはいかない。樹脂をリサイクルするにはコストがかかるからだ。

 樹脂のリサイクルは、使用済み後の製品から樹脂部品を解体し、種類ごとに分離・回収する必要がある。一口に樹脂と言っても特性は多種多様で、軽量かつ高機能な設計をもたらす半面、同一種類の樹脂を集めないと再生材の特性や品質が劣化するというやっかいな問題がある。だが、現行の解体業者は対応してくれない。そこまで手間を掛けたら採算が取れないからだ。

 使用済みの樹脂は、破砕してフレークにし、洗浄や乾燥工程などを経て再びペレットまで戻す。これを使えばメカニカルリサイクルとなり、多くの欧州企業はまずこの水準の樹脂再生を目指している。ところが、これでは再生するたびに成形品の特性や品質が落ちてしまうという課題がある。いわゆるダウングレードリサイクル(またはカスケードリサイクル)である。

廃タイヤ生まれのドアハンドル

 そこで、ケミカルリサイクルを目指す動きも目立ってきた。使用済み樹脂に化学的処理を施し、油やガスのレベルまで戻してから樹脂のペレットなどに再生する方法だ。これであれば、バージン材と全く同じ特性や品質を得られる。ただし、使用済みの樹脂の重合を解く(解重合)工程を要するため、その分のエネルギーが必要だ。従って、どうしてもバージン材よりもコストが上がる。

 日本企業の中で今、環境問題を重視していない企業など1社もないだろう。だが、環境対応のためにどこまでコストの上昇を許容するかと問われると、途端に表情が曇る。リサイクル材にせよバイオプラスチックにせよ、その採用に関して「コストの増加が5%以内なら認めてくれる顧客はいる。だが、10%以上になると見向きもされなくなる」といった声が材料メーカーから上がっている。顧客の本音は「価格は現行と同等に抑えてほしい」というものだろうが、それでは材料メーカーだけに環境対応の負担を押し付けることになり、それこそ産業全体の持続可能性を失いかねない。

 一方で、顧客側の事情も分からなくはない。自動車メーカーでも電機メーカーでも産業機器メーカーでも、厳しいコスト競争を戦っている日本企業が多いからだ。そうした企業がしかるべき利益を確保する上で、環境対応の材料を採用するコスト増がコスト競争において負担になるという現実は確かにあるだろう。

 その点で、ドイツMercedes Benzの取り組みに、「うまい」と感心させられたのだ。同社はK2022に「ゴミから生まれたドアハンドル」を出展した(展示場所はドイツBASFのブース)。再生ドアハンドルの材料はポリアミド(PA)6で、強化材として30質量%のガラス繊維を含有している(図2)。