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 携帯電話料金の値下げを重要政策に掲げる菅政権が誕生してから2カ月近くが過ぎ、総務省がいよいよ具体的な政策を打ち出し始めた。しかし中身を見ると、多くは過去からの競争促進策に継続して取り組むだけの政策テーマが多い。総務省が打てる手はかなり出尽くしているのが実情といえるだろう。

 大手携帯電話事業者の競争相手となるMVNO(仮想移動体通信事業者)も加入者獲得の伸びが鈍っている。ネットワークを自ら整備して参入した楽天モバイルも含めて、携帯大手3社を脅かすほどの実力はまだない。NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの大手3社が顧客流出を防ごうと自発的に料金を値下げするほど、急速に競争が進む見込みは薄い。

 一方で、菅義偉首相や武田良太総務相は大手3社の料金水準を問題視する発言をたびたび繰り返している。菅首相が携帯電話料金の値下げに注力する狙いは、家計に占める携帯料金の負担を和らげて可処分所得を引き上げる点にある。携帯電話料金は以前から自由化されており、規制当局として打てる手は、競争を通じて合理的な料金水準が実現されるのをじっくり待つことだ。

携帯電話料金の値下げを重要政策に掲げた菅義偉首相
携帯電話料金の値下げを重要政策に掲げた菅義偉首相
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 しかし菅政権は成果を急いでいる。成果を急いで大手3社の値下げが実現できればいいのか。それとも携帯電話市場で新規参入の事業者と大手3社のより活発な競争を実現させたいのか。どちらに軸を置くのか政府の腰が定まらず、政策を立案実行する過程や本来の狙いがないがしろにされることを筆者は危惧している。

政府と携帯大手の腹の探り合いが始まる

 政権からの発言を「値下げ要請」と受け止め、大手3社の社長らは前向きに対応すると発言し始めている。ただし現状の動きは、政権が納得するであろう値下げの形を見定めようと腹を探る動きだ。

 KDDIとソフトバンクは、それぞれのサブブランドである「UQモバイル」と「ワイモバイル」がデータ通信容量20ギガバイトで月額税別4000円前後の料金プランを2020年10月28日に発表した。いずれも加入者がまだ少ないサブブランドで新たな料金プランを加えただけであり、家計負担に直結する「値下げ」とはいえない内容だ。まずはサブブランドを使って政府側の反応を探った動きといえる。

 これに対して、武田大臣は「各社が対応したと思っている。これを契機に、利用者自身がプランをしっかり見直して、家計負担軽減につなげていただきたい」と10月30日の会見で発言した。「家計に占める携帯料金の比率を下げる」という目標の観点からは、サブブランドの新料金は現状で達成にはまだ程遠い。十分な値下げかどうかに言及したわけではないが、それでも肯定的なメッセージを発した。

 MVNOや楽天モバイル、さらにはサブブランドも含めて、携帯電話サービスの乗り換えが進まない大きな理由の1つは消費者の腰が重いことだ。総務省が2020年3月に実施したWebアンケート調査によれば、通信料金が「高いと思う」と答えた人は37.1%を占めるにもかかわらず、携帯電話事業者の乗り換え意向を聞くと「検討中」は9.9%、「今後可能性がある」は22.8%にとどまる。事業者の乗り換えを考えていない理由(複数回答)は40.4%を占める「手続きが面倒くさいため」が最も多い。

総務省調査による携帯電話サービスの乗り換えを検討する人の割合。上から2019年9月、2019年12月、2020年3月
総務省調査による携帯電話サービスの乗り換えを検討する人の割合。上から2019年9月、2019年12月、2020年3月
出所:総務省
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 大手3社が取り組む「値下げ」にも様々な形がある。家計負担を直ちに軽減する、大手3社の加入者が多い料金プランで値下げするのか。それともUQモバイルとワイモバイルのようにサブブランドの新料金プランで良いのか。政権は「値下げ」をどう定義するのか、すでに難しい判断が突きつけられている。