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 質疑応答を含めれば1時間45分に及ぶ大演説だった。ソフトバンクグループ(SBG)が2020年11月9日に開催した、同年4~9月期連結決算(国際会計基準)の説明会。孫正義会長兼社長は業績の話もそこそこに切り上げ、「これからのソフトバンク(グループ)は、AI(人工知能)革命への投資会社に専念していく」と宣言した。

2020年4~9月期連結決算を発表するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
2020年4~9月期連結決算を発表するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
(発表時の動画をキャプチャー)
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 孫会長はさらに、虎の子事業である投資規模10兆円の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」について「“大赤字だ、もう終わった”と結論づけた人がたくさんいたと思うがとんでもない。まだ始まったばかりだ」と上機嫌な様子で述べた。それもそのはず。SBGの2020年4~9月期の純利益は1兆8832億円と、前年同期の約4.5倍に膨らんでいる。SVFなどファンド事業の運用成績が改善したのが主因だ。

 SVFなどで100億ドル超を投じたシェアオフィス大手、米WeCompany(ウィーカンパニー、現WeWork=ウィーワーク)が2019年に経営難となり、2020年3月には出資先の1つである衛星通信スタートアップの英OneWeb(ワンウェブ)が経営破綻した。孫会長の投資先に対する「目利き力」に疑問符がつくなか、ファンド事業の復調は確かに今のSBGにとって大きな意味を持つ。

厚遇された3副社長が取締役辞任

 だが今回の会見を振り返ってみると、投資事業の復調や業績回復に勝るとも劣らぬ重要なポイントが他にもあったと筆者は考えている。

 その1つは、孫会長が会見後半の数分間でさらりと説明した「取締役会の大幅な体制変更」だ。具体的にはマルセロ・クラウレCOO(最高執行責任者)、ラジーブ・ミスラ氏、佐護勝紀CSO(最高戦略責任者)の3副社長が取締役を辞任し、執行役員に転じた。また、サウジアラビアの政府系ファンド「Public Investment Fund」理事や国営石油会社サウジアラムコ会長を務めるヤシル・アルルマヤン氏も取締役を辞している。

 この人事で目を引くのは、クラウレ氏とミスラ氏、佐護氏の処遇だ。この3人はどのような経歴の持ち主なのか。

 クラウレ氏は南米ボリビアにルーツを持ち、1997年に米国で携帯電話の販売会社Brightstar(ブライトスター)を起業して世界最大級の販売網を築いた。その手腕を見込んだ孫会長がブライトスターを買収したのは2013年のことだ。クラウレ氏は翌2014年、当時ソフトバンク傘下だった米携帯大手Sprint(スプリント)のCEO(最高経営責任者)に就任し、黒字化させた。2019年、経営難に陥ったウィーカンパニーを再建するため会長として送り込まれたことも記憶に新しい。

 インド出身のミスラ氏は、ソフトバンクが2006年に英携帯電話大手Vodafone(ボーダフォン)の日本法人を買収する際、ドイツ銀行の担当者として資金調達を支援したことで知られている。ドイツ銀では債券部門の責任者を長く務め、UBSグループや投資ファンドの米Fortress Investment Groupを経て2014年にソフトバンクにスカウトされた。SBGでは投資規模10兆円に及ぶSVFを運用責任者として主導してきた。

 クラウレ氏とミスラ氏の経歴は全く異なるが、ともに孫正義会長兼社長の「腹心」で「後継候補」だと目されてきた人物と言える。そこに分け入る形で頭角を現したのが佐護氏だ。ゴールドマン・サックス証券とゆうちょ銀行の副社長を歴任し、2018年6月にソフトバンクへ転じると、いきなり取締役副社長兼CSOとしてグループ全体の投資戦略を任された。

 この3人はSBGから受け取る役員報酬も莫大だ。東京商工リサーチによると、2020年3月期の役員報酬ランキングでクラウレ氏は2位(21億1300万円)、ミスラ氏は4位(16億600万円)、佐護氏は6位(11億1000万円)と、いずれもトップ10入りした。国内通信子会社ソフトバンク社長で長らく大番頭格を務める宮内謙氏や、SBG専務でCFO(最高財務責任者)など要職を兼務する後藤芳光氏といった古参幹部を大きく上回っている。

2020年3月期決算企業の役員報酬トップ10
出所:東京商工リサーチ、敬称略
順位 企業名 氏名 報酬総額(前年)
1住友不動産高島準司22億5900万円(-)
2ソフトバンクグループマルセロ・クラウレ21億1300万円(18億200万円)
3武田薬品工業クリストフ・ウェバー20億7300万円(17億5800万円)
4ソフトバンクグループラジーブ・ミスラ16億600万円(7億5200万円)
5トヨタ自動車ディディエ・ルロワ12億3900万円(10億4200万円)
6ソフトバンクグループ佐護勝紀11億1000万円(9億8200万円)
7武田薬品工業アンドリュー・プランプ10億4600万円(7億9500万円)
8ソニー吉田憲一郎10億2300万円(8億4700万円)
9SOMPOホールディングスナイジェル・フラッド8億3900万円(-)
10信越化学工業金川千尋7億4600万円(7億300万円)