都市部のドローン配送ニーズに疑問
都市部はさまざまな配送サービスが行き届いており、わざわざドローンを使う必要がある地域はほとんどないだろう。ドローン配送の利点を挙げるなら、配送時間の短さだ。信号や渋滞のない「空の道」を使えるため、少量の医薬物資や食料品を届けるには適している。サービス開始時点では物珍しさから注文することも多くなりそうだ。だが、ビジネスとして普及するかどうかは配送料次第になるだろう。
自治体が赤字負担しない場合、配送料をいくらにすればドローン配送サービスの採算が取れるのだろうか。例えば、楽天グループは21年1月、三重県志摩市の離島である間崎島においてドローン配送サービスを期間限定で実施した。配送手数料は1回500円(税込み価格)に設定した。伊那市の例も、月額1000円で使い放題ではなく、1回数百円の都度課金にすれば、採算ラインに近づくのだろうか。だがコストに基づいて配送料を高くすれば高くするほど、利用が遠のく恐れもある。
世界に目を向けても、まだドローン配送のニーズと採算のバランスを確立した例は少ないようだ。米Alphabet(アルファベット)の子会社でドローン配送サービスを手掛ける米Wing(ウイング)は21年8月、オーストラリアなどで累計10万件の配送回数に達したと発表した。同社はコーヒーなどの食料品を中心とした配送サービスを手掛ける。
ただ同社のサービスは、現段階で「アーリー・フライアーズ・プログラム(Early Flyers Program)」という試験期間に当たり、運送費は無料としている。送料を有料にした場合、大きな需要があるかどうかは未知数だ。
山間地では収益はプラスになりにくいものの、ニーズはある。都市部ではそもそもニーズがあるかどうかわからない。このような状況で、ドローン配送サービスのビジネスモデルをどのように成立させていくのか。まずは伊那市のように採算度外視でドローン配送事業を運用し、需要や用途を見極めていくアプローチは重要だろう。とはいえサービスを持続可能なものにしていくためには、収益化の道筋を付けることが欠かせない。レベル4解禁を目前に控え、ドローン市場は実証実験からビジネスモデルの探索へと、フェーズが移り変わりつつある。