「それって採算取れるんですか?」
記者が思わずそう聞いてしまったのは、長野県伊那市で開かれたドローン配送に関する記者説明会でのことだ。同市とゼンリンなどは2021年11月16日、10km以上もの距離を離れた中山間地域へ、日用品を届けるドローン配送サービスを開始した。同市は少子高齢化が進み、日用品の買い物困難者が地域課題になっている。そんな課題の解消を目指したサービスだ。ゼンリンが開発してきたドローン向け3D地図を、初めて商用につなげた事例という。
「住民の利用を促進するため、サブスクリプション形態を取りたいと思います。どれだけ使っても、配達料は月額1000円です」
冒頭の質問は、伊那市の担当者がこう発言したことを受けてのものだ。これが実証実験の一環であれば、記者も納得できた。だが月額1000円で使い放題は、住民にとってうれしい破格値だが、本当にこの金額でビジネスとして成り立つのだろうか。今回のドローン配送サービスは実は、ドローンだけでは成り立っておらず、多くの人手がかかっている。そのため、そんな感想が言葉に漏れてしまったのである(図1)。
ドローン用3D地図活用で配達を長距離化
伊那市とゼンリンが開始した「INAドローン アクア・スカイウェイ事業」は、日常的な買い物に多くの手間がかかっている中山間地域の住民に、ドローンを使って日用品や生鮮食品を配送するサービスだ。同市では少子高齢化が進んでいることから、買い物困難者の解消を目指す(動画1)。
同事業は20年8月から進めており、21年11月16日からはゼンリンの3D地図を組み込んで再始動した。「新たに配達距離を10.3kmに伸ばせた。これまでは6.6kmの配達距離だった。ドローン機体の軽量化に加え、ゼンリンの3D地図を活用したことが大きい」と同市担当者は説明する。
ゼンリンの3D地図を活用することで、ドローンの飛行ルートをより細かく設定できるようになった。ドローンが墜落しても安全上問題がないように、飛行ルートとして伊那市を流れる三峰川(みぶがわ)沿いなどを「空の道」として選んだ。山間部の狭い河川上空で鉄塔と衝突しないようにしたり、通信網が脆弱な地域を避けたりするルートを確立できた。